第12話 ただの中学生だから

 ただの中学生だから、わたしは。無人島で生き残る知恵も知識もない。サバイバル能力は低いと思う。

  

 でも、これはやっちゃダメとか、これはやったほうがいいとか、そういうのはわかる。ほかの十五人よりも少し進んだ時代の人間として。ちょっと偉そうかな。

 

 ひとつは、むやみやたらと狩りをしちゃダメだと思う。ほら、むかし南の島にいたドードー鳥を、乱かくしてぜつめつさせた話があったよね。


 ここにドードー鳥がいたら、ドノバンたちが狩りつくすかも。海鳥のタマゴだって、コスターなら取りつくしそう。どうしようもない場合もあるだろうけど、気をつけた方がいいと思うんだ。

 

 こういうの、エスディージーズっていうのかな。ほら持続可能な何とかってやつ(SDGs、持続可能な開発目標)。

 

 もうひとつは、やっぱり栄養バランス。野菜を食べないとビタミン不足になって、病気になりやすい。便秘にもなるし、肌もあれる。

  

 口で言うのは簡単だけど、大変だよね。たいていの鳥や獣はたぶん食べられる。でも、食べられる植物を探すのは難しい。


 ここが日本なら知っている山菜がありそう。南半球の島だから。知らない植物ばっかりなんだよね。


 それでも、きっと、やりかたはある。

 原作では低学年の子は活躍しないけど、例えばジェンキンズの知識はもっと生かせると思うんだ。


 ゴードンもああ見えて植物に詳しいんだよ。うふふ、原作を読んでいるわたしは知っている。

  

 みんなの知識を総動員して、スラウギ号にある図鑑も活用して、みんなで食べられる植物を探せばいいんだよ!

  

 そのとき、ガーネットがわたしの顔をのぞきこんだ。

「ヒカリ、だいじょうぶ? 難しい顔をしてるけど」

「あ、ごめんね。だいじょうぶだよ。ちょっと考えごとしていたから」

 ガーネットは優しいなぁ。

 わたしは照れ隠しに笑ってみせた。

 

「考えごとって、決闘のメニューについて?」


 うん、そうだ。いま考えていることは、決闘のメニューにもつながる話だと思う。 

「それもあるね。決闘のメニューは、わたしがやるべきことをやればいいのかも」

「ヒカリのやるべきことって何?」

「いま食事についてあれこれ考えていることを、形にしたいな」

  

 ガーネットがほほ笑んだ。

「ヒカリはいろいろ考える人なんだね」

「あはは、たいしたことは考えてないよ。問題は野菜だけど、どこかにないかなぁ」

「サーヴィスは野菜なんか使わないと思うわ」

 わたしもそう思った。どうせクロッスとウェッブが狩った鳥か獣を使うに決まっている。


 きょうの海は穏やかだ。

 数日前の嵐がうそみたい。

 砂浜を吹きぬける海風が心地よい。

  

 わたしは、再び小魚をとりはじめたドールとコスターを目で追う。そして、ふと、あるものに気づいた。

「あっ、ガーネット。あれは食べるかな?」

「えっ、あれって何のこと」

「ちょっと待っててね。よいしょ。ほら、これだよ」

 

 わたしはあるものをひろいあげた。

 ガーネットが目を見開く。

「ヒカリ、そんなもの食べられるの?」

「うん、食べられるよ」

  

 そうだ。この手があったよ!

 頭の中で、パズルのピースがカチッとはまった。わたしが考えていることを、これで形にできそうな気がした。


  ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

  

 決闘の日がやってきた。


 朝ご飯だから朝に決闘するのかと思ったら、夜にやることになった。上級生は早朝から探検に出かけていたし、朝からやることが山のようにあったから。

  

 サーヴィスから提案があった。

「審査するのは三人だけど、他の人たちも気になると思うんだ。みんなの分も用意して食べてもらったらどうかな」

  

 クロッスとウエッブがサーヴィスの後ろでニヤニヤしている。

 あー、なるほどね。みんなにも食べさせて、自分たちに有利な雰囲気をつくろうってこんたんだよね。いかにも子分コンビが考えそうなことだ。わたしは、あえてのってやることにした。

  

「サーヴィス、別にいいよ。そのかわり、わたしからもお願いがある」

「うん、何?」

「プレゼンさせてよ」

「プレゼンって、何それ?」

「料理のねらいを説明したいんだ。みんなに聞いてもらいたいから」

「それくらい別に構わないよ」

  

 それを聞いたクロッスがちゃかす。

「言い訳の準備か。まあ、それくらいは聞いてやってもいいよな」

  

 わたしはクロッスとウェッブを気にしないことにきめた。今のうちに好きなように言えばいいよ。

  

 いよいよ決闘の時刻が近づいてきた。


 サーヴィスたちは船の外で準備中だ。砂浜に石を組んでかまどにして、何かを焼いているようだ。けむりがモクモクと上がっている。

  

 わたしはキッチンストーブを使って調理した。ガーネットと、それから低学年の少年たちにも手伝ってもらった。


 ドールが大鍋の中身を見て、ぽつりと言う。

「まずそう」


 こらーっ。

 まずそうって、はっきり言うな!

 まあでも、予想された反応だ。

 すべては計算通りだ。

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