6 結局は。
そして。
隆太の胸に頭を預けた形の華は華で、絶賛パニック中であった。
(ぎゃあああ! 泣いて逃げて、コケそうになったところを助けられて! しかも足が痺れてよろめいて! カッコ悪! 『何なんだよコイツ』とか絶対思われてるよ! ……変な女って、思われてる、よ……離れなきゃ……)
好きな男子の、呆れ顔。
ジト目。
しかめっ面。
ぶるり。
隆太の浮かべているであろう表情を想像し、体を震わせながらも覚悟を決めた華が見上げる。
すると、そこには。
困ったように微笑む隆太がいた。
「大丈夫? 足、痛い? 痺れちゃった?」
「はい……少し痺れて。でも、大丈夫、です」
●
華は、思う。
これだけ、迷惑をかけたのに。
まだ心配してくれている。
怒らない。
呆れてない。
優しい愁いを含んだ瞳の、イケメンさん。
思っていた通りに、優しかった。
思っていたよりとても、カッコよかった。
知らない間に、こんなに好きだった。
でも。
可愛い彼女がいるこの人には、もう近づかない。近づいちゃいけない。
私の初恋は、もうおしまい。
誰にも知られることもなく、おしまい。
ありがとうございました。最後に少しだけ、胸キュン思い出、ありがとうございました。
隆太の両腕に添えた手を、華はその指先の方へと力なく滑らせていく。
●
隆太は、思う。
一目惚れだった。
少しずつでも近づきたかった。
この子の、一番になりたかった。
でも。
なれなかった。
諦めなきゃいけないのに、本屋に来てしまう。どうしようもなく会いたくなってしまう。
彼氏と一緒に歩く姿を見た日も、結局はそうだった。格上の相手にスパーリングでボコられる方が遥かにマシな気分だった。
もう、駅ビルには来ない。これ以上好きになる前に、終わりにしよう。
この子がケガをしなくてよかった。
彼氏と幸せに……なって下さい。
動き出した華の手に合わせて、隆太の手がその腕をそっと掴んだまま滑り落ちていく。
●
互いの手が、触れ合った。
触れていたい。
でも、触れてはいけない人。
最後の指の先が離れた感触に、二人は唇を噛み締めた。
「あの、本当にありがとうございました」
華が深々と頭を下げた。
「いや……大した事してないし。でも、これからは階段で走ったらダメだよ。君が骨折や大怪我したら……彼氏が悲しむよ?」
眉をハの字にしながら微笑む隆太。
「不注意でした。もうしません……彼氏? 私の彼氏って誰の事ですか?」
「……え?」
隆太の発言に顔を上げた華と、その疑問に目が点になった隆太が顔を見合わせて首を傾げた。
そこに。
●
「あ、隆太! まだそこにいたの?!」
隆太と共にいた、ゆるフワ女子が駆け込んできた。後ろめたさと申し訳なさで華は俯いてしまう。
「隆太、おっそいよ! ウジウジして死にそうな顔してるから、乾坤一擲! なあのコへのプレゼント見て回って……!? ちょっと! まさか女の子泣かしたの?!」
「ウジウジ言うな! うっさくてごめん。これ、うちの姉ちゃんのルカ」
「そう……え?! お、お姉さん?!」
好きな人の彼女と思っていた女子が、お姉さんだった。喜びより、華の思考がついていかない。
「違うんです! お、弟さんが転んだ私をかばって体をぶつけて……」
「ん? いいのいいの! コイツ、へんにょりってしてるけど格闘技してるから!」
「言い方!!」
隆太の叫びとジト目に全く
「そうだ。隆太、さっき渡した小物と一緒に片想いちゃんにコレなんかどう? ついでに彼氏がいるかちゃんと聞いて当たって砕けてきなよ……って、見た事あると思ったらこのコ、ご本人様じゃん!」
「ぎゃー!! うわー! お前帰れよ! 帰れ!!」
「え? え?」
興奮しきってニマニマなルカと、顔色をコロコロと変えながら叫ぶ隆太に、華は目を点にした。
「やっばぁ!! 眼鏡っ娘で黒髪ロング、あどけない美人顔! めちゃめちゃストライク! あのさ、可愛くない弟の為に教えて! 彼氏いる? 何年?」
「い、いませんけど……。一年です」
「隆太と同い年だ! 私は二年だよ! ほお、彼氏いないとな!」
「可愛くないとか言ってんじゃねえ……え?」
華の言葉に動きを止めた隆太。
そしてルカの勢いは止まらない。
「だったらさ! だったらさ! ここに彼女がいなくて一人ぼっちで寂しくて、片想いの相手に彼氏がいるって勘違いしてウジウジしょんぼりした情けない奴がいるんだけど、友達から始めてみない? いつもはもう少し芯が強くて、頼りがいもほんのちょっぴりはある優しい奴だよ」
「もうやめろおお! ていうか本当に言い方!」
ルカの言葉に、華は身体を震わせた。
近づいてもいいんだ。
話しかけてもいいんだ、と。
「お、お友達から始めても、いいんですかっ?」
「気に入ったら彼氏でもいいよ! そんで、ついでに私の事をお姉ちゃんって呼んでほしいかも! 妹、ほしかったんだ!」
「ぶっ飛んでんじゃねえよ! ホントに頼む! ルカ、ハウス!」
「ルカ、お姉ちゃん?」
「ぎゃあああああ!」
いやんいやん、と頬に手をあてて首を振るルカを呆れた目で眺めながら、隆太は華に向き直って頭を下げた。
「俺、友塚隆太って言います。初めて見た時がら……じゃなくて! よ、よかったら友達になってください!」
「円城華です。で、できればお友達以上恋人未満くらいから始めたいです!」
「え?」
●
そう、結局は。
一目惚れ同士が、勘違いしていただけの話でした。
おわり。
【新】和風女子とチャラ男子と、本屋さん マクスウェルの仔猫 @majikaru1124
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