第39話 それでも私は幸せです

「アメリナ、今日俺の目を盗んで、他の令息と話をしていたね。悪い子だな…早速あの部屋に…」


「お待ちください、ルドルフ様。あれはあの令息が、教科書を忘れたので見せてあげただけですわ。それに皆さま、私とルドルフ様がどれほど愛し合っているかご存じです。とにかく、落ち着いて下さい」


必死にルドルフ様にすり寄り、口づけをしてご機嫌を取る。


あの部屋を見せられてから早3ヶ月。あの日以来、少しでもルドルフ様の心が穏やかでいてくれる様に、日々頑張っている。


あの部屋を見た時は、正直引いてしまった。でも、これほどまで私の事を愛してくれている事、そして病んでしまうまで追い詰めてしまった事を思うと、私にできる事をやって行こうと決めたのだ。


それに何よりも、私はどんなルドルフ様であっても、大好きなのだ。一度失いかけたことで、改めてそう思う様になった。


それに普段はお優しいし、機嫌を損ねさえしなければ問題ない。そう、機嫌を損ねなければね…それに少しずつだが、ルドルフ様の扱いも分かって来たのだ。


「アメリナ、そうすれば俺の機嫌がなおると思って」


「あら、実際にルドルフ様の機嫌もなおっているではありませんか」


にっこり微笑み、ルドルフ様に寄り添う。温かくてがっちりとした体が、私には一番落ち着く。


「確かにそうだけれど…いつの間にか俺の扱いもすっかりうまくなったね。アメリナ、俺の事を気持ち悪いと思わないかい?」


なぜか急に、ルドルフ様がそんな事を言い出したのだ。一体どうしたのかしら?


「確かに驚きましたし、若干引きましたが、気持ち悪いとかは思いませんでしたわ。きっと私がそこまでルドルフ様を追い詰めてしまったのだと。だからこそ、少しでもルドルフ様が穏やかに過ごせるように、心がけておりますの。ルドルフ様、私は子供の頃からあなた様が大好きです。何度諦めようと思っても、諦めきれなかったくらい」


ルドルフ様の目を見つめた。


「それでも不安でしたら、私にぶつけて下さい。その時はずっと、あなた様の傍におります。あなた様の心が落ち着くまでずっと」


「アメリナ…君って子は…ありがとう。それじゃあ、これから侯爵家で暮してくれるかい?俺は君を伯爵家で過ごさせるのが不安なんだ。君の両親には、アメリナの許可が下りればいいと言われていてね」


えっ?侯爵家で暮らすですって?


「でも、結婚するまではそれぞれ実家で暮らすものかと…」


「結婚までは、まだ1年近くあるのだよ。1年もアメリナを野放しにしておくなんて出来ないからね。それに今、アメリナも言ってくれたじゃないか。俺が不安な時は、傍にいるって。俺はずっと不安なんだ。だから、ずっと傍にいて欲しい」


これは断れないパターンね。


「…分かりましたわ。それでは、侯爵家で生活させていただきます」


「それは本当かい?それじゃあ、早速引越しをしよう。そうだ、今日から侯爵家で生活して欲しい。部屋は既に俺の隣に準備してあるんだよ。もちろん、君の専属メイドたちも連れてきてもいいからね」


「えっ?今日から?」


「ああ、そうだよ。もしかして、嫌なのかい?」


ゾクリとするほど美しい笑みを浮かべながら見つめてくるルドルフ様。だから、その顔は止めて!


「嫌だなんてとんでもない。分かりましたわ、それでは今日から侯爵家でお世話になります」


「それじゃあ、今日から一緒に寝ようね。そうだ、お風呂以外はずっと一緒にいよう」


「えっ?一緒に寝るのですか?さすがに結婚していない男女が一緒になるのは…」


「俺たちはいずれ結婚するのだから問題ないよ。もちろん、手は出さないし。それに何よりも、アメリナがずっと傍にいてくれると言ったのじゃないか!」


確かに私がそう言ったのだったわ。もう、仕方ないな。


「分かりましたわ。こうなったらルドルフ様が嫌というほど、一緒にいて差し上げます」


「アメリナが傍にいてくれることに対し、嫌になる事なんて絶対にないよ。絶対にね…」


また黒いオーラが出ているわ…ルドルフ様ったら。


きっとまた、サーラからは


“さすがにルドルフ様って、重くない?”


と言われるだろう。そしてクレア様からは


“だから逃げて下さいと言ったのに!これでもう本格的に、あの変態からは逃げられませんよ”


と、こっそり言われそうだ。私とルドルフ様が正式に婚約してから、ルドルフ様の隙を見て私に話しかけてくるのだ。どうやらクレア様なりに、真剣に私の事を心配してくれている様だ。


でも…


私はそんな世間一般から見たら変態なルドルフ様を、心から愛しているし、逃げたいだなんて、微塵も思わない。


そう、私も大概の変態なのかもしれない。


束縛は激しいし、逐一私の事を監視しているし、黒いオーラを出すルドルフ様だけれど、そんな彼が私は大好きなのだ。きっとこれからも、彼を全力で愛していくだろう。


それが彼を愛してしまった私の宿命でもあるから。



おしまい



~あとがき~

これにて完結です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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嫌われていると思って彼を避けていたら、おもいっきり愛されていました @karamimi

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