Epilogue-1- ロストシルフィード
Dear.時雨
…お元気ですか?
私は最近、第五街区と第九街区を行ったり来たりしています。時雨と寧々がいっぺんにいなくなったせいで、私ばかり忙しくなって正直てんてこまいです。
ヴァルは全然手伝ってくれないし…
あの後。
ルナはきちんと、ライラちゃんとお別れができたみたいです。
「振り返っちゃだめだよ」とルナが言ったのを最後に。ちゃんとライラちゃんは現世に帰っていきました。ルナに「どうしたい?」と尋ねたら、「次に呼び出しが来たら…来世に行こうかな」と言われました。
ライラちゃんに言われたそうです。「いつまでも待たせていたら悪いから。先に来世に行ってていいよ。その代わりに自分は忘れないし、夢は必ず叶える。その上で、ルナを追いかけて来世でまた出会って、今度こそ約束を果たそうね」と。
…ライラちゃんは強くて、逞ましくて、真っすぐだよね。
ルナはルナで「私が一向に転生しなかったら、ライラは自分が約束で縛り付けた…って言いそうだから。ちゃんと来世でライラを待つし、約束を叶えられるように今度こそ頑張る!」と張り切っていました。
きっともうすぐ、ルナの順番が来ると思います。
藍珠は相変わらず、第四街区の塔を管理してくれています。
もう今の私には、頼りになる存在が藍珠しかいません…。
時雨や詠ちゃん、寧々の話は私から伝えました。藍珠は誰のことよりもまず、私のことを心配してくれてね。「一人じゃないからね、一人にしないから、私が居るよ」って言ってくれました。
時雨も少しは見習ってくれたらよかったのに。
璃々ちゃんと寧々は、現世ですべて忘れて幸せに生きているみたい。寧々は十四歳で記憶が止まったまま現世に戻ったので、今も凄く苦労はしているようだけど。璃々ちゃんが支えて、二人で頑張って暮らしているみたいよ。
この先もずっと、二人が一緒に居られることを願います。
…そういえば一つ、聞き忘れたけれど。
あの時。詠ちゃんに何を囁いていたの?
何かを手渡していたように見えた…。もう私には確かめようがないけれど、気になります。いつか、教えてね。
いつか…。
居なくなってから、よく時雨のことを考えるの。
あの時あなたは何を思ってこの曲を作ったんだろう、とか。
時雨が残した楽譜が沢山私の手元にあってね。一つ一つ、曲を聴くたびに思い出が溢れ出すの。玉手箱みたいに、閉じ込めていた記憶がいつでも蘇るの。
時雨に確かめたかった。
もっと話をすればよかったね。もっと沢山曲を聴かせてもらえばよかった。
それだけをずっと、思っています。
…そろそろ今日は、終わりにしようかしら。
今日も第五街区の空は、昼の月が見えてとても綺麗だから。
あなたもどこかで、見ていてくれたら嬉しいです。
それじゃあ、また。
From. Noir
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