Tr.7 Troubadour
暗闇に佇んでいる。
眠りに近い感覚だったが、思考はハッキリとしているのに体は動かない。水中にいるような、宙に浮いているような、何とも言えない無力感。
その中で時雨はずっと、ライラという少女の記憶を辿っていた。
器を貸してもらっている彼女は、今あの世界に居て。時雨があの子の動向を知るはずはないのに、なぜかすべての情報がちゃんと頭に入ってくる。
ルナとの出会い、思い出、別れ、そしてあの世界でルナと再会した喜び。全て自分がたった今体験しているかのように鮮明で、リアルだった。
器を入れ替えるというのは、魂を入れ替えるのと同義だ。
(…寝ている間は魂と器の境界が曖昧になるんだろうか。だから僕にもライラの記憶が、情報が流れ込んできた?)
埒が明かないので、一旦考えるのをやめる。とにかく、ルナがずっと待っていた相手と再会出来たことは時雨にとっても感慨深かった。
第三街区にルナが来たのは、確か向こうの時間で…六年ほど前だった気がする。時雨にとっては割と最近の部類なので、よく覚えている。夕暮れの空の下で泣いていたルナを。
そのルナが絶対に譲らなかった約束。迎えに行く、と言ってくれた誰かを待っていたい。ルナはいつもそう言っていた。相手の…ライラの記憶は失ってしまっていたのに。約束だけは、魂の中に焼き付いていたのだろう。
転生の順番は、基本的にランダム。時雨も仕組みはよく知らないが、順番が記されたリストのようなものがあるらしい。管理しているのはノワール。あの世界に降り立ってすぐ、転生する人もいれば。逆に長く留まる場合もあるにはあるが…大体の人間が数カ月程度でいなくなる。
但し、自分の番が来て呼ばれても「もう少しここに居たいから」と順番を後回しにしてもらうことも可能だ。ルナと藍珠はそうしてあの世界に留まった。
転生が決まった人間は第五街区の神殿から来世へと向かう。
その人の人生録には終止符が打たれ、その本は二度と開かなくなり。
新しい、真っ新な人生録が与えられるのだ。
『まったく別の人間に生まれ変わるって、どんな感じだろうね?』
声がする。大らかで勇ましくて、少しおどけたような声音。
『輪廻転生?っていうんだっけ?現世の一部の宗教では』
勇ましい声は、喋り続けている。顔は見えない。一つに結った長い銀髪が揺れる、後ろ姿だけがぼんやりと浮かび上がる。
『…あっはっは!たった二十数年生きたくらいで、なーに全部悟ったみたいな顔してんの?』
豪快な笑い声。何もかも見透かしたような、それでいて力強い眼光。
『時雨、世界はね…』
自分を呼ぶ、その人は。
チリンチリーン、と。涼やかに風鈴の音が聞こえる。
◇◆◇
「…ぐれ、時雨!」
ガタン、と体が揺れた。同時に、窓ガラスに思い切り頭をぶつける。
「いった…!」
「だ、大丈夫?…っていうか駅、もう着くから降りなきゃ」
ぶつけた頭の痛みで、だいぶ意識がハッキリした。時雨は詠の向かいの席に戻ってきている。
詠が手配してくれた列車はとんでもなく高速で、詠曰く四時間程度乗っていれば目的の駅に着くらしい。始めの内、時雨と詠はポツポツ会話をしていたのだが。真剣な話をしようとすれば、詠はそれを上手に躱すのだ。車内で言い争うわけにもいかないので、時雨も自然と言葉を引っ込める。曲でも作ろうか…と思ったけれど、生憎手ぶらだ。譜面も万年筆も、何も持っていない。他人が居る車内で歌うわけにもいかない。
徒歩での旅が、もう恋しい。
『あと五分でなんたら駅』とアナウンスする声を聞き流しながら、窓の外を見る。
詠が住んでいたという都会。街中が眩しい。光が多すぎて、最早綺麗かどうかも分からないほどに。様々な文字の羅列、窓からは見上げられない程高い建物。第九街区の塔だってこんなに高くはない。
自分の知っている現世はこんな場所ではなかったが、心の片隅に一抹の懐かしさがあって。
「…もう、ずっと前のことなのに」
到着後、二人で列車を降りた。他にもぞろぞろと乗客が列をなして降り、一瞬人波に呑まれて詠を見失いそうになったが。何とか必死で食らいつく。
「…ところで詠、まだ目的地までしばらくかかるんだよね?…もうかなり夜遅いけど、どうするつもり?」
「ふふ…とっておきの秘策があるから大丈夫…」
歩きながら、珍しく詠が意味ありげに笑う。ワクワクしているのか、詠の足取りは軽やかで少し速い。
そうしてまた詠の後について歩く。川を逆流しているような気分だった。次から次へと目の前に人間が現れる。時雨は真正面を見て、人を避けるのに必死だった。
迷宮のような建物をひたすら詠について歩くこと、十数分。時雨と詠は、再び駅のホームに戻ってきていて、目の前には見たこともない立派な列車が止まっている。
「わあ…寝台列車乗ってみたかったの…嬉しい…」
詠は、藍珠の塔で初めて本棚の壁を見た時のような、キラキラした目で列車を見つめた。確かに洒落た車体だが、時雨には何がそんなに楽しみなのかが分からない。
「…えーと、これに乗るの?」
「そう!今日は平日で、オフシーズンだから偶然ツインが余ってたの!」
「…これに乗るとこの紙の場所に行けるの?」
「うん!あ、って言っても直接ではないけど…この列車に乗ると、朝目的地の最寄りの駅に着いてね。そこから船で一時間くらい行くと、この場所みたい」
「まだそんなにあるのか…」
うんざりした顔をすれば、詠はまた楽しげに目を細める。
「ふふ…なんかやっぱり、向こうに居た時と立場が逆転したみたいだね。なんにも知らない時雨と、何でも知ってる私」
「詠が楽しそうで何よりだよ…」
恨めしく詠をじとっと睨みながら、時雨は先に列車に乗り込んだ。
列車の中は思ったより広くて、快適そうだった。二階建てになっていて、詠がとってくれた二人部屋は二階だった。二台のベッドが横に並んだ個室。詠が大きな車窓側のベッドを選んだので、時雨は壁側のベッドに座る。
列車はしばらくすると動き出した。不規則に体が揺られる感覚。窓の外には相変わらず、ギラギラした夜景が広がっている。
「…明るいな」
「外?いつもこうだよ。…はあ…藍珠さんの居た第四街区の星空が恋しい…」
「…僕もだ」
「あ、電気消してみようよ。そしたらもう少し綺麗に見えるかも」
パチッと詠がスイッチを押す。部屋の灯りが消えた。
「…まあ、さっきよりは…でもやっぱり明るいな」
結局、外の光が眩しすぎてとてもじゃないが星なんて見えない。キラッと反射した街灯の光に目を細める。詠の姿が、逆光で黒いシルエットになる。
「…少しは私の気持ち、分かってくれた?」
暗がりから、詠の声がした。薄明りの中、眉尻を下げて曖昧に笑う詠と目が合う。
「…いいところじゃないでしょ、ここ。」
「…まあ、向こうと比べれば」
「いいところっていうか…私には生きづらい場所なんだ。騒がしくて、眩しくて、せわしなくて、理不尽」
詠が窓の外に目を遣る。沢山の光がまだ、ビルの窓に灯っている。
「私を大切に思ってくれてる人も、まだいる。でもその人は、きっと私より早くあの世界にいってしまう。…他に私を繋ぎとめてくれる人はいないし。」
「…これから出来るかもしれないよ」
「無理だよ。時雨以上に一緒にいたいと思える人なんて、きっといない。時雨の作る音楽より、聴きたい音楽なんてない」
「そんなことは…」
「あるの」
ピシャリ、と放たれた鋭い声。グッと握りしめた詠の拳が見える。説得する言葉は、思い浮かばなかった。重苦しい沈黙が続く。詠の言葉は、心からそう思っているようには聞こえなかった。そう信じていないと、縋る物がなくなってしまう。そんな恐怖に満ちた声音。
「…時雨は、いつ向こうに戻るの?」
「…知らない。ヴァルに提示された条件を完遂してから、かな。でも長くいるわけにはいかない。この体は僕の物じゃない。きっといれてあと一日、二日」
詠は押し黙る。時雨は、詠が呑み込んだ言葉がわかる気がした。詠はそのまま何も言わずに布団をかぶって。窓の方を向いたまま振り返らなかった。
ガタン…ガタン…
揺れる車内に、時折刺すような光が入ってくる。列車はかなり進んで、ギラギラしたビルの灯りはだいぶ減った。眠れない時雨は、どうすれば詠をここに留まらせることが出来るのか、そればかり考えている。
今の詠には、時雨や時雨の音楽、あの世界で旅をした思い出。それしか見えていない。でも時雨にはその気持ちが痛いくらい分かった。だから否定も出来ない。大切にしたい誰かがきっとこれからできるよ、とか。長く生きればいいことあるよ、とか。そんなの無責任な時雨の願望だ。実際にこれからの人生を生きるのは詠で、消えようとしている自分に、一緒には居られない自分に、言えることではない。
結局は、その人の命だ。他者が正論を振りかざした所で、「じゃあ貴方がどうにかしてくれるの?」と問われれば答えられない。
命の責任は、他人には取れない。
『時雨、世界はね…』
また、あの台詞だ。心臓が貫かれたみたいに痛んで、ベッドの上で身を縮める。
聞き覚えのある声。詠じゃない、ヴァルでもノワールでもない。ルナ、藍珠…記憶の限り知っている声を辿る。物凄く身近な、何度も聴いている声。
心臓の音が煩い。たまらず目を閉じる。暗闇に呑まれたその瞬間、気づいた。
この声は、セツナの。
◇◆◇
(…?)
パッと目を開くと、目の前には紫色の小さな家があった。
凄く見覚えのある家だ。風鈴のついたアンティーク調のドア、レースのカーテンが覗く小窓、三角屋根。
中に入ろうとした。体が動かなかった。視点も変わらない。
すると、内側からガチャッとドアが開いて。
『…もう…別にいいじゃない?明日でも…時間はたっぷりあるんだからさあ』
『駄目だよ。そう言って一週間放置するのがセツナだろう』
中から出てきた人影を見て、時雨は息を呑む。後から出てきたのは、昔の自分。「昔」とは言っても、今と風貌は全く変わらない。
時雨の目をくぎ付けにしたのは、先に出てきた女性だった。長い銀髪を一つに結わえた、グレーの双眸と、紫ベースのベストに白いマント。
(…セツナ)
セツナは、「うんざり」を隠そうともしない表情で歩き出す。それを追い越してズンズン歩いていく過去の時雨。
そうか、これは記憶だ。確かに時雨は、セツナとこの道を歩いた記憶がある。あの長い銀髪が揺れる、後ろ姿を見ながら。
『昨日だって夜遅くまで色々手を加えたんだし…』
『でも結局完成しなかったじゃないか。明後日のお祭りで聴かせてって言われたんだろう?もう時間がないよ』
『どうせパッと明日くらいにいいメロディーが思いつくって!』
『いいや、今日の内に構想は固めておくべきだ』
はああ…とセツナが盛大に溜息を吐く。
『まったく…いいかい?吟遊詩人ってのは、気の赴くままに旅をしながら、音楽を紡ぐのが仕事なんだ。そんな“いついつまでに作らなきゃ”って根詰めたっていい音楽は絶対にできやしないよ』
『…でも頼まれて、引き受けたんだよね?』
ウッとセツナが言葉に詰まる。目を逸らした彼女に、今度は時雨が嘆息した。
『セツナは狂ったように毎日曲を作ってる時と、一切作れない時があるよね』
『音楽家なんてみんなそんなもんじゃないのかい?時雨だって…』
言いかけた言葉が尻すぼみに消えた。察した過去の時雨は、苦笑する。
『…別に、現世での話に触れられたって嫌じゃないよ。ま、僕はちゃんと毎日ピアノ弾いてたけどね。サボり魔のセツナと違って』
『…だー!もうわかったよ!行けばいいんでしょ、行けば!』
開き直ったセツナが、大股でズンズン歩き出す。おいていかれた過去の自分が慌てて走り出す。
懐かしい。遥か昔で朧げだった記憶が、見える。今、鮮明に。
セツナは吟遊詩人だった。
あの世界に降り立って、最初に話した人物。
時雨が降り立ったのは第八街区。水の都と呼ばれるその街には、カラフルな石造りの家々と運河がある。大きな運河は様々な方向に枝分かれしていて、基本街の人は皆小舟で移動するのだ。
ルナや藍珠と違って時雨は、ちゃんと自分の最期を記憶したままあの世界に辿り着いた。死に際の記憶の有無に関して、原因はよく分からないらしい。死者の世界だという認識があるかないかはかなり重要な気もするが、そればかりはノワールにもどうしようもないのだと、嘗て嘆いているのを聞いた。
とにかく時雨はここが天国なのだと認識したまま、暫くは第八街区での穏やかな暮らしを楽しんだ。
現世で音楽に苦しめられた時雨は、少しの間音楽に触れなかった。だが結局また音楽が恋しくなり、街外れの塔にピアノが置いてある…と噂を聞きつけた時雨は、そこに向かった。それは、当時セツナが管理していた第八街区の塔だった。
『凄いね!緻密に考えられた精巧な音楽だ…君は音楽家なのかい?』
ピアノを弾いていたら、唐突に声をかけられ。そのあまりにフレンドリーな態度に面食らったものの、時雨は『ピアノ弾きだった』と答える。するとセツナは一瞬おかしな顔をして首を傾げた。
『…何?』
『いや、君ほどの演奏が出来るなら“ピアニストだった”が正しいんじゃない?』
『…ピアニストは、名乗れないよ』
最後の方、時雨は誠実に向き合っていなかった。音楽にも、ピアノにも。そう答えれば目を丸くした後、豪快に笑いだすセツナ。
『面白いことを言ったつもりはないんだけど…』
『あっはっは!ああ…ごめんごめん。向き合えなかったって、自分でそう言ってる時点で君は音楽に対して誠実だよ。それに…』
セツナがバッと取り出したのは、見たことのない木製の小さな笛。
『音楽は自由だ。誠実な音楽だけが正しいわけじゃない。君の好きなように弾いたらいいさ!』
そうしてセツナは、聴いたことのないメロディーを奏で始める。クラシックとは違う、時雨の知っている音楽ともまた違う。温かくて、優しい、個性的な旋律。グッと心を掴んで離さない、魅力的な。
『…それ、なんていう曲?』
『ん?名はない。今適当に吹いた』
『即興演奏…?なるほど…じゃあ、貴方は作曲家なの?』
驚いて問い返す時雨を横目に、セツナはニッと口の端を持ち上げる。
『いいや、私はトルバドゥール…吟遊詩人だよ』
吟遊詩人。各地を旅しながら音楽を作り、歌い語りながら歩く旅人。
『トルバドゥールってのは最古の言い方なんだ。派生してその後ミンストレル、とかトルヴェールとか違う言い方もあるらしいんだけどね。この世界には私しかいないから、私が先人!一番乗りだ!』
セツナは大きくなりすぎた子供…を体現したような人だった。真っすぐで純粋で自由。時雨は幾度となく振り回され、うんざりする時もあったが。彼女の作る音楽は何故か懐かしくて、優しくて。ずっと聴いていたいと思わせる何かがあった。
彼女は吟遊詩人を名乗りながら、時雨と出逢って数週間、他の街に移動する形跡はなかった。理由を尋ねれば、「移動が面倒だから」という身も蓋もない回答が返ってきて。
『この街の家が一番気に入ってんだよね。入口の風鈴、可愛いでしょ?』
悪戯っぽく笑うセツナに、時雨は溜息で応じる。
『じゃあ、暫くこの街にいるの?』
『ま、そうなるかな!時雨は?会ってから結構経つよね?まだ呼ばれないの?』
“呼ばれないの?”とは、転生の順番が…という意味だろう。時雨は首を横に振る。誰がどういう風に伝えにくるのかは知らないが、こちらに来て約一か月経っても時雨にお呼びはかかっていなかった。
『んじゃあさ、私の曲、弾いてよ!』
『え?』
『ピアニストなんでしょ?やった!専属ピアニストが手に入って嬉しいわ!』
満面の笑みでセツナはピアノ椅子をバンバン叩く。早く座れ、とでもいうように。
『…はあ…で?何を弾けばいいの?』
『いやあ、この曲に伴奏つけたくてさ…』
そんなわけで、時雨はセツナの曲を演奏するようになり、次第に曲作りにも口を出すようになり。遂には『時雨も作曲挑戦してみればいいじゃん?』の一言により、自力で作曲を試みるようになった。
案外作曲というのは面白い。今までは偉大な作曲家が作った曲を、どう表現するか…それだけだったけど。自分で作るとなれば、表現したいことは自分が詰め込まなくちゃいけない。
ずっと音楽をやってきた時雨は、知識だけ豊富だった。セツナが生み出すような天性のメロディーは書けないが。人のことを想いながら、題材を決めて言葉を紡いで、メロディーをつけて、伴奏をつける。誰かの想いを、人生を、音楽にする。
その過程すべてが楽しかった。
いつの間にか、時雨は作曲の虜になった。
『ねえ、時雨』
『ん?何?』
セツナと出逢って、半年が過ぎた。まだ相変わらず第八街区の風鈴の鳴る家に居て。毎日第八街区の塔にいっては、曲を作って過ごしていた。
『まだ呼ばれないのか~?随分と長くない?』
『…来ないものは来ないんだ。気長に待つしかないだろう?』
答えながら、若干の後ろめたさが胸をよぎる。
実はもう二回ほど、転生の通知が来ていた。しかも二度目の時は、ノワールという黒いドレスの女性が、直々に足を運んでその旨を伝えてくれたのだが。時雨はもう少し此処に居たい、とその呼び出しを断っている。
『ふーん。ま、長い人もいるか!あのさ、実はもうそろそろこの街に飽きたから別の街に行こうと思ってるんだよ』
『…え?』
譜面を書いていた時雨の手が止まる。上げた視線が、セツナのグレーの眼差しとぶつかる。時雨は次に別れを切り出されるのだと察して、咄嗟にそれは嫌だと言おうとした。
だけど、セツナが口にしたのは予想外の言葉で。
『だからさ、一緒に行かない?』
そうして時雨は、セツナと旅して廻る吟遊詩人になった。
半年かけて、第六、七、四街区を巡り沢山の曲を書いた。セツナは本当に自由人で、困らされることも多かったが。同時に世界の全てを知り尽くしていて、時雨に沢山の知識をくれた。
途中、ヴァルという旅商人に会った。商人を名乗っておきながら売り物は何一つ持っていないその男を、時雨は少なからず警戒したが。セツナとは旧知の仲らしく、他愛無い話を少し交わしてまた去っていった。去り際にちらりと時雨を見た彼の、意味深な笑みが気になったけれど。
『…ああ、そういえば時雨!』
『うん?』
第七街区…遺跡の街を二人で歩いていた時のことだ。先を歩いていたセツナが振り向く。顔を上げた時雨に、セツナが何かを投げつけてきて。
『…!?うわっ…』
咄嗟にキャッチしたそれは、一冊の本。青い背表紙で、厚みはそんなにない。不思議と手にフィットする感覚、じんわりと胸の奥で何かがうずく感覚に首を傾げる。
『危ないな…物を投げるのは良くないよ』
『おっと、ごめん…それ、第八街区の塔にあったからさ。持ってきたんだ。』
大して悪びれもせずに、セツナが肩を竦める。乱暴なのはいつものことだ。溜息を吐きながら時雨は何気なくパラパラ…と最初の方のページを捲って…目を見開いた。
『これ…僕の…』
『そう。人生録だよ』
『…人生録?』
うわごとのように呟く。聞き馴染みのない言葉なのもあるが、それ以上に。目の前の本に書かれていたのは、時雨が生まれてから死ぬまでの…全ての記録。どこで何をして、何を思ったか。勿論三六五日毎時間分、記されているわけじゃない。記憶に残っていた、忘れられなかったような、鮮烈な出来事だけ記録されている。
死ぬ間際まで、時雨の脳裏のかなり深い場所に眠っていた記憶たち。
『人生録は、その名の通りその人の人生の記録。いわば魂の器と言ってもいい。生まれてから死ぬまで、その人の記憶の一部始終がそこに記録されているんだよ。』
『…誰かが、書いているってこと?』
『いいや、勝手に記される。仕組みは私も知らない。私たちの脳に勝手に記憶が埋め込まれていくように、これも当たり前の現象なんだ』
分かるような気もしたし不思議な気もした。この世界の原理なんて知ろうとしてもキリがないだろう。
『因みに転生したらこの本は塔の本棚に並ぶ。開くことは出来るけど、続きはもう記されない。読まれるだけの、正真正銘の本になる。そして新しい人生のための、新しい人生録がまた与えられる』
『…これを僕に渡して、どうするの?』
『ん?どうもしない。ただ、振り返ってみたい…とか、そういう気持ちになったりするのかなって。なんとなく』
『…』
しばらく無言で、自分の人生に目を通す。幸福な思い出よりも、辛くて苦い思い出の方がどちらかと言えば多かった。それでも、懐かしい…という感情はいつの間にか心の中心に芽生えていて。
『…まあ、暇なときに読むよ』
『今だって十分暇だよ?』
『いいんだ。…ほら、行くよ』
怪訝そうな顔のセツナを追い抜かして、時雨は進む。慌てて後ろから近づいてくる、セツナの靴音を聴きながら。久々に時雨は、自分の生涯に思いを馳せた。
それから数週間。今度は大陸の北側を巡ることとなり、時雨たちは第一街区を訪れた。第一街区には小さい集落がいくつかあり、セツナはその内の一つに用があるのだと言う。
『どうしてもこの曲を届けてあげたい子がいるんだ』
手に掲げた一枚の楽譜を見つめて、セツナは珍しく溜息を吐く。
聞けば、現世で悲しい別れ方をした親子が居て。その親から子への伝言が込められた歌なのだという。
『直接会わせてあげるのは駄目なの?』
『同じ街に同時に落ちてきた場合を除いて、基本的にはご法度だね。別に誰が定めた訳じゃないけど…互いにここが死者の世界だって認識があったとして、大切な人とこの世界で巡り合ってしまったら転生したくなくなるだろう?』
『ああ…まあ確かに。その親御さんは最近こちらに来た人なの?』
『いいや、もう随分前に転生した。子供の方が、最近こちらに来てね。第一街区に居ると聞いたんだ、ノワールに』
その発言が僅かに引っかかる。前々から一つ、気になっていることがあった。その場で問いただそうか迷って、結局言葉にするのはやめる。セツナが真剣な眼差しをしている今この時に、わざわざ水を差さなくてもいい。
時雨は目的地に着くまで、その親子について幾つか質問を繰り出した。聞く限りでは本当に哀しい顛末で、セツナから話を聞き終えた後には時雨の心もかなり重く沈み込んでいた。
『…それ、どうにかならなかったのかな』
『え?』
『例えば、ほんの少しタイミングが違ったらそういう結末にはならなかったような気がして…たった一つの掛け違いで、そんな悲しい事態を招いてしまうんだね』
『…結局ね、人間の生っていうのはある程度人生録によって
急に自分に矛先が向いてたじろぐ。自分の過去にセツナが触れてきたのは、この時が初めてだった。脳裏に焼き付いて離れない、死に際の父の狂気の目。さあっと血の気を失くした時雨を見て、セツナは慌てて『ごめん』と呟く。
『いや、いいんだ…そうだね。僕の死の結末は、あの日あの場所と決められていたのか…』
『…でも生きている間は違うよ。自分の手で選んで、切り開いていける。人生録で運命られているのは、おおまかなあらすじだけさ。抗う者にはちゃんと救済の余地がある。ただ絶対に変わらないのは、魂の総数だ』
『魂の総数?』
『そう。現世に存在できる魂の数は決められている。人生録という器の数は増えも減りもしないからだ。だから仮に誰かの寿命が延びたら、誰か他の人間の寿命が縮む。死ぬ運命だった者が生きたら、その分誰かが死ぬ。そうやって天秤のように釣り合いを取っているんだよ』
『…そういうものなのか』
この時の時雨は、セツナの言葉を本当の意味で理解したわけではなかったと思う。ただ傍観者のように、世界の真理は残酷だなと噛み締めるばかりで。
『…真理に必死で抗おうとしてる、面白い男を一人知ってるけどね。あたしは、不条理は受け入れた上でせめて、あたしに出来ることをしようとしてるだけさ。届けられる思いを、音楽として届ける。それくらいしか出来ない』
自嘲気味に笑うセツナは、普段のおちゃらけた音楽家とは別人に見えた。
『ねえセツナ』
『あー?なにさ?昨日の曲ならまだできてないよ!』
『違うよ。聞きたいことがある』
『え?なに?』
お菓子を食べながら譜面と向き合っていたセツナと目が合う。
一か月が過ぎた。時雨たちは再び第四街区に戻り、塔の中で生活していた。この街の塔にはピアノがあるからだ。
『セツナは…人間じゃないのか?』
『は?何言ってんの、人間だよ』
『はぐらかさないで。時系列がおかしいだろう?どこの街の人も皆、セツナを知ってた。転生を待っている普通の人間とは思えないよ』
時雨の言葉を聞いたセツナの、顔つきが変わった。
各街を旅して、セツナは前に何度もそれぞれの街を訪れていること、やけにこの世界に詳しいこと、そして呼び出される様子が全くないことが気になって。尋ねられる隙をずっと見計らっていたのだ。
『…ま、隠してもしょうがないね。そうだよ。あたしはこの世界の管理者の一人だからさ。お呼び出しはないし、ずっとここにいるんだ』
『…やっぱりそうか』
『だーかーら!アンタがずっと呼び出されてんのに、先延ばしにしてることも実は知ってるんだなあ~』
そこに話が繋がるのは想定外で。
目を逸らした時雨に、セツナがすり寄ってくる。
『ノワールが何度も呼びに来てるでしょ?あたしはノワールとも仲間なんだよ?ぜーんぶ筒抜けさ』
『…ならそう言ってよ。隠してた僕が馬鹿みたいじゃないか』
『ええ?言いづらいし。それに…まあ、あたしも初めて連れが出来て嬉しかったからさ!もうちょっとくらい良いかな…って、あんたの嘘を見ないフリしてた』
揺れるランプの光で、セツナの横顔にユラユラと影が重なる。少し寂しげな横顔。だけど、時雨が口を開きかけた次の瞬間。凄い勢いでセツナに肩を組まれる。
『うわっ…!?』
『けど!駄目だよ。もう一年近く経つでしょ?次、ノワールが呼びに来たら…行きな。これ以上ここに居たら、互いに未練がましくなっちゃうよ』
振り返ったセツナの顔には、曇りのない笑顔が浮かんでいた。しゃかんだままの時雨は、その笑顔を何とも言えない顔で見つめる。
『…なに?その反抗期の子供みたいな顔は』
『反抗期の子供はいつだってセツナの方でしょ。僕は面倒見る側だよ』
『はあ!?あたしを何歳だと思ってんの~?』
そこからはいつもの軽口大会になり、いつも通り時雨がセツナを言い負かして、不貞腐れたままセツナはそっぽ向いて眠りについた。時雨は苦笑しながらその様子を眺め、ランプの灯りを消して目を閉じて。
その数時間後…事件は起きた。
やけに騒がしい声がして、時雨は目を覚ました。まだ眠ってから数時間しか経っていないので、真夜中の三時くらいだろうか。
隣で眠りこけているセツナを横目に、一旦外に出た。誰かの怒鳴り声が響いている。時雨は声のする方向に走り出した。
走り出してすぐに、気づく。何かが焦げたような匂い。視界の先に白く立ち上る煙と、微かに揺らめく赤色。嫌な予感がした。
全速力で走り抜けること、数分。足を止めたその先には…燃え盛る一つの家があって。火は暴れ馬のように揺らめいて、とてもじゃないが近寄れそうにない。
『…っ、中に人は!?』
すぐ傍にしゃがみ込んでいた男に尋ねる。男は酷く狼狽した様子で、家を指さす。
『ここに住んでるやつの姿が…見えない…』
炎に包まれた家を見つめる。時雨の脳裏にはいつかセツナと交わした会話が蘇る。
『この世界ってさ、どこまで現世と同じようにできてるの?』
『え?どういう意味?』
確か第七街区を歩いていた時だ。自分の人生録を受け取った、すぐ後。
『僕の中では天国って、痛みも苦しみも感じない平和な世界だと思ってたのにさ。普通に争いも起きれば、怪我もする。対人関係で悩んだり、記憶に苦しめられたり、現世と何ら変わりないじゃない』
『ああ…そういうことかぁ。うーんとね、端的に答えるなら九割一緒かな。転生があるかないかの違いくらい。…ああ、あと年は取らないね。それから病気や老衰もないよ』
指折り数えるセツナの言葉に、時雨はしばし逡巡する。
『…病気や老衰がないなら、死っていう概念はここには無いってこと?』
『あるよ。…死者の世界なのに、可笑しいって思うでしょ?』
ピタリと、大股で歩いていたセツナの足が止まる。痛ましい記憶を、無理やり呼び覚ました時のような苦い笑みが浮かんでいた。
『自然に死ぬことはない。でも不慮の事故や誰かの、或いは自分の意志で命を奪うことはできる』
『…この世界で死んだ場合は、どこに行くの?』
セツナがその時に見せた表情を、今でも覚えている。冷たくて真っ黒な、色のない眸をしていた。
『人生録ごと消滅する。すなわち…転生も出来ない。完全な、”死”だよ』
『…っ、あっ!ちょっと、あんた何して…!』
背後から声がする。躊躇わなかった。足が勝手に動く。燃え盛る火の勢いが一番弱い、側面の大きな窓を思い切り体当たりして割った。中にそのまま押し入ると、部屋の隅で膝を抱えて、気を失っている女性を見つけて。
煙が目に入って痛い。咳が止まらない。それでも、なんとか女性の所までたどり着いた。幸い彼女は小柄で、時雨でも運び出せそうだ。
無理やり彼女を背中に担いで、立ち上がる。今時雨が通ってきた道はまだ、火が弱い。このまま出られる。
どうにか力を振り絞ってよろけながら窓を越えた…その時。
ドサッと、何かが落ちる音。振り向いて、気づいた。
懐にしまっていた本が…時雨の人生録が、部屋の中に落ちていて。あっという間に本は、目の前で炎の波に包まれる。表面から少しずつ、焼け焦げていく。
段々視界が暗くなっていくのを感じながら、時雨はぼんやりと考える。人生録の方が先に燃え尽きた場合、自分はどうなるのだろう。なんとなく答えは出ていた。あの本が”魂の器”だと言うのなら。
器を失くせばきっと、魂も零れ落ちる。現に自分の体はもういうことをきかない。
それでも背中に乗せた彼女を巻き添えには出来ない。死なせまいと必死に足を動かし続けて。
『…っ、時雨!』
聞き覚えのある声がした。温かくて、勇ましい声。初めて聞く、必死な、胸が張り裂けそうな声音だった。視界の端に、紫の服が映った。
薄れゆく意識の中で、こんな時でも時雨の頭の中には、音楽が流れている。
セツナが作りかけていた、力強くて幻想的なメロディー。
『…、ごめ…』
続きは言えなかった。体の自由が利かなくなって、視界が暗転した。
真っ暗な景色の中で、セツナの歌が聴こえたような気がした。
◇◆◇
再び目を覚ました時。時雨は何故か、第四街区の塔の壁にもたれていて。
『…っ、!?』
一瞬、夢だったんだと思った。自分は眠っている内に、酷い夢を見たんだ。そう言い聞かせて、真鍮の扉をくぐる。
ガラス張りの天井から差し込む月明かり。ガランとした広間の階段を上る。
嫌な感じがする。胸の中心が、心臓が引き裂かれそうに痛い。無意識に駆け足になった。セツナが眠っているはずの部屋まで辿り着く。バン!とそのまま勢い任せにドアを開けた。
『…っ』
そこに横たわっている筈の人影はなく。
『…やあ』
背後から聞き覚えのある声がした。振り向いて、戸惑う。
『…どうして君がここに…っ』
旅商人のヴァル。最後に見た時と同じ、意味深な笑みを浮かべたまま廊下の壁に背を預けている。ヴァルはその問いには答えなかった。
『あの女性は無事だったよ。でも君に一つ残念なお知らせがある』
『…残念?』
おうむ返しに問う。鈍くなった脳内で『あの女性』という単語が反芻する。思い当たるのは、燃え盛る火の中で自分が助けようとしたあの人。
あれが夢でないのなら。
ドクンと心臓が跳ねる。ヴァルがゆっくりと口を開く。
『君の人生録は焼失した。そしてセツナが君の代わりに消えた』
彼の言葉が、理解できない。
『…何を、言ってるんだ?』
『言葉通りだよ。火の中に君が落とした人生録は、そのまま燃え尽きた。だから君は転生も出来ないまま完全に消滅するはずだった。だけど…セツナが君を救ったんだ』
『救ったって…僕は消滅したんだろう?消滅した人間を救う方法なんか…』
『あるんだ。セツナだけが使える、唯一の方法がね』
ヴァルが懐から何かを取り出す。それは旅の中で何度もセツナが書き足していた、一枚の楽譜だった。
『…いつも書いてるその楽譜、何?』
どこの街に滞在していた時だったか、定かではないが。セツナが肌身離さず持ち歩いては、旅先で少しずつ書き足している楽譜の存在に気づいた時雨は、そう尋ねたことがある。少しの間をおいてセツナは含み笑いと共に、時雨にその楽譜を差し出した。
一番上に綴られた曲名は『Paradis《パラディ》』。セツナの筆跡ではない。
『…これは?』
『第七街区・遺跡の街の墓石に刻まれていた曲なんだ。だいぶ昔に見つけた。曲名と五線譜、メロディーだけは初めから記されていたけど、詩は一文字も書かれていなくてね』
『…それを、完成させようとしてるわけ?』
『うん。墓石の一番下に、興味深い一文が書かれていたからね』
セツナが諳んじた墓石の一文は、御伽噺のようで。真面目に取り合うこともせず、時雨は笑って聞き流したのだ。
いつかのその会話を思い浮かべた時雨に、ヴァルは淡々と語りかける。
『永遠を誓う歌、Paradis。第七街区の墓石に刻まれたこの歌のことは、オレも知っていたよ。セツナは君との旅路の間にこの曲を完成させていた。一つ分の命を代償に、大切な人の命一つを救うことが出来る、特別な曲だ』
『あんなの御伽噺じゃ…』
『いいや?オレもこの目で見るまでは半信半疑だったが…セツナはこの曲で君を救って見せた。…この曲が効力を持つには条件があるのを知ってるかい?』
一つは、大切な人を想って自分自身で言葉を綴ること。
もう一つは、この世界に元々居る人間だけが持つ碧い万年筆で書き入れることだとヴァルは説明する。セツナが愛用していた、碧いボディの万年筆が脳裏に浮かぶ。
段々呼吸が浅くなる。最悪のシナリオが、今目の前に提示されかけている。確かめるのが怖くて、時雨はそれ以上追及できなかった。
だけど。ヴァルは非情にも話し続ける。時雨が気を失った後の顛末を。
『もう理解しただろう?完成したこの”永遠の歌”を奏でて、セツナは君を救った。自分の命を懸けてね。君の命は無事救われ、セツナはその場で代わりに消滅した。…偶然居合わせたオレに、君への伝言と置き土産を預けてね』
『…そんな…嘘だ…』
『オレは取引条件はちゃんと守るさ。嘘なんて吐かない。…まあ、セツナが消えたことは少なからず悲しんでるよ。こう見えても』
ヴァルの戯言は半分しか耳に入ってこなかった。事の顛末を頭では理解していても、呆然とそこに座り込んだまま動けない。
セツナがもうこの世界に居ないという事実が、信じられなかった。
誰かの死というものは、こんなに呆気ないのか。さっきまで当たり前にそこに居た人間が、こんなに突然居なくなってしまうのか。
二度と会えない。言葉を交わすこともない。お別れも、感謝も、何一つ伝えられない。そんな現実が存在するのか。
吐き気と眩暈が襲う。頭が痛い。ガンガンする。時雨はその場に膝をついた。どんな表情をしているのかは知らないが、頭上からヴァルの声がする。
『…これはその預かりもの。ちゃんと渡したからね』
そっと時雨の前に置かれたのは、一枚の楽譜と碧い万年筆。楽譜には”Paradis"という曲名と、メロディーが示された音符以外何も書かれていない。時雨が見た時は五割程度埋まっていた歌詞は、全て消えていた。
『一度使うとリセットされるらしい。…ああ、伝言が裏に書いてあるって、セツナからの。じゃ、オレはこれで。まあ…もし君もオレと取引したくなったら、おいで』
カツ、カツ…とヴァルの靴音が遠ざかる。やがてギイイイ…と扉が閉じる音。広くい塔の中に、時雨一人だけが取り残される。
さっきまでここで共に過ごしていた、セツナはもう居ない。
力の入らない手で、床に置かれた楽譜を裏返した。
真ん中に見覚えのある筆跡で、一文。
『君にこの楽譜を託すよ。いつか必要な時が来たら、使うといい』
壊れた蛇口から水が零れるように、ぽつんと落ちる雫。
『…馬鹿じゃないの…』
うるさいなあ、と口答えする声は、その日から二度と聞けなくなった。
その日から時雨は、ミンストレル…吟遊詩人として生きることを決めた。
セツナが託してくれた命で。旅をして回って、誰かの物語を音楽にして。
ずっとセツナの面影を、思いを、背負いながら。
今度は自分が、誰かを救う音楽を作れるように。
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