第80話 大月千尋 22歳 ―wedding②―

 私が国見君に気づいたと同時に、国見君が立花君と二人でバスに乗り込んできた。目が合い、国見君も一瞬驚いたような表情を見せた。


 鼓動が強く打ち始めるのを感じる。


「二人とも久しぶりだね」


 私と志保の横を通り過ぎながら国見君が言った。


「久しぶりじゃん!国見と立花君も招待されたんだね」


 志保がすぐに反応したが、私は小さく「久しぶり…」としか言えなかった。


 国見君と立花君は私たちよりもさらに後方の席に座ったようで、なんとなく落ち着かない。


 それから出発ギリギリの時間になってさらに数人の地元の友人たちが乗り込んできて、バスは出発した。その後もいくつかの経由地で停まっては人が乗り込んできて、バスの中は20人近くの人で賑やかくなっていた。


 後方から時々国見君の声が聞こえるけれど、何を話しているのかまではわからない。


 国見君と最後に会ったのは、ちょうど一年前の12月末だった。昨年の3月に二人でドライブをして、国見君から告白をされてからも時々メールで連絡を取り合ったり、電話で話したりしながら5月のゴールデンウィークや8月の夏休みの帰省時には短い時間だけれど二人で会ったりもした。そして、12月末に冬休みで帰省したときにも夜に少しだけドライブをしたけれど、そのときを最後に二人で会うことはなくなってしまい、気づけば丸一年が経ってしまった。


 会わなくなったきっかけは特になかった。二人で会うときにはいつもお互いの近況を話すくらいで、他愛のない話ばかりだった。私と誠との関係は続いていたけれど、国見君はそのことについて一度も聞いてこなかったし、私からも何も話さなかった。


 なぜ国見君から連絡が来なくなったのかはわからない。国見君に彼女ができたのかもしれないし、彼女じゃなくても気になる女性がいたりするのかもしれない。


 そして、私からも国見君に連絡をすることがなくなっていった。心のどこかでずっと気になってはいるけれど、時間が空いてしまうほどに連絡しにくくなっていった。それに、私には相変わらず罪悪感もあった。誠と付き合っていながら国見君と二人で会うことで、国見君に対しても、誠に対しても罪悪感が付きまとっていた。


 だから、国見君から連絡がくることがなくなり、その罪悪感から少しずつ解放されていくにつれて、あえて私から国見君に連絡することもなくなっていったのだと思う。


 そんなことを考えながら窓の外を眺めているうちに、バスはレストランに到着した。隣に座っていた志保は、久しぶりに再会した周囲の同級生たちとずっとお喋りをしていたようだ。


 彩子ちゃんと達也君の結婚式が行われるレストランは海沿いにあり、海に面していない三方は松の木に囲まれている。


 レストランの入り口で受付を済ませると、決められた席に案内された。


 私の席は6人掛けの四角いテーブルで、3人ずつ向き合う形になっている。私の隣には志保が座り、さらにその隣には国見君が座った。私の向かい側には中学の頃の同級生の女の子が座っていて、式が始まるまで思い出話や近況を語り合っていた。


 国見君は志保と話したり、別のテーブルの友達と話したりしているようで、気になるけれど、国見君との間に志保がいることもあってなかなか声をかけることができない。国見君も私に声をかけてくる様子はないけれど、避けられているというよりも、ただ単に気にしていないような感じもする。


 しばらくすると、司会を務める女性が話し始め、いよいよ式が始まりそうである。


 レストランの中の照明が落とされ、司会の合図とともに入り口の扉が開かれて、スポットライトの中を彩子ちゃんと達也君がそろって入場してきた。


 結婚式場での式と異なり、新郎、新婦それぞれに入場するようなことはなく、初めから二人で腕を組んで入場してくるスタイルらしい。


 盛大な拍手の中を歩く二人はとても幸せそうな顔をしていて、その姿を見てじわっと涙がこみ上げてきた。


 レストランでの式ということで、次々と運ばれてくる食事を食べながら、二人のプロフィールや馴れ初めを聞いて、友人からのスピーチも挟まれたりした。


 お色直しのために彩子ちゃんと達也君が一度退席すると、数人の人たちがお手洗いに立ったり、別の席に移動して会話を楽しんだりしていた。


 志保や同級生の子たちも席を離れてしまい、6人掛けのテーブルには私と国見君だけが残ってしまった。

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