第79話 大月千尋 22歳 ―wedding①―

 大学4年の8月。夕食を片付け、エアコンの効いたアパートの部屋で国家試験に向けて勉強をしていると、LINEの着信音が鳴った。画面を確認すると「日野彩子」と表示されている。


 彩子ちゃんとは帰省したときに会ったりしていたけれど、今年は忙しかったこともあり、年明けに会って以来連絡もしていなかった。中学の同級生で、いつも一緒にいた頃が懐かしくなる。


 ———そういえば、中学校で国見君と同じ班になったときに、彩子ちゃんも一緒だったな。


 そんなことをふと思い出しながらLINEの通話ボタンを押した。


「もしもし」


『あ、もしもし。千尋ちゃん、久しぶり!』


 電話の向こうから彩子ちゃんの元気な声が聞こえた。


「久しぶりだね。急にどうしたの?」


『今日はちょっと報告があって…』


「え? 何? もしかして…」


『うん、結婚するよ!』


「えー!おめでとう!良かったねぇ。こんなに早く結婚するなんてびっくり」


 彩子ちゃんは3年ほど前から付き合っている彼氏がいて、その彼氏も中学の同級生なのだ。まだ大学生の私からすると結婚するということに驚いたが、彩子ちゃんと彼氏である達也君はどちらも高校卒業後から働いているので、自然な流れなのかもしれない。


『私も予想以上に早くてびっくりだけどね。それでさ、12月に結婚式をするんだけど、参加してもらえるかな?』


「もちろんだよ! 絶対に行くね」


 自分の結婚ではないけれど、飛び跳ねたいくらいに嬉しかった。来年の2月に控えている国家試験に向けての勉強で忙しいけれど、友人の結婚式のためならばなんとしても時間を確保しなければ。


 電話で彩子ちゃんの話を聞いていくと、結婚式は地元のレストランで行うらしい。招待するのは友人が中心で、少人数で行いたいとのことだった。


 12月に楽しみができて、これで勉強もはかどる…、とは限らないけれど、気持ち的な余裕をもって結婚式に出席するために、今のうちから勉強を頑張っておこうと思った。






 彩子ちゃんの結婚式には志保も招待されていて、志保と二人で中学校の校門まで来てみると、すでに送迎のバスが停まっていた。


 バスに乗り込むとまだ誰も来ていないようで、二人で後方の席に並んで座った。


 バスの経由地は何か所かあるらしいのだが、この中学校が最初の経由地であるらしい。ここから他に誰が乗って行くのかはわからないが、彩子ちゃんも達也君もこの中学校出身であるため、もう数人くらいはここから乗って行く人がいそうな気がする。


 しかし、しばらく経っても誰もバスに乗り込んでくることはなくバスのエンジンがかかった。そのとき、バス前方の入り口のほうから聞き覚えのある話し声が聞こえてきてドキッとした。


 ———国見君だ…。



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