第73話 大月千尋 20歳 ―核心②―
「え?男友達? それはちょっとな…」
翌日の夜になり、国見君から春休みにドライブに誘われていることを相談すると、誠は苦い表情をした。
国見君と付き合っていたことについては誠には話していないけれど、高校の頃に付き合っていた人がいたことは話したことがあったため、誠もなんとなく気づいているかもしれない。
「そうだよね。変なこと聞いちゃってごめん。ちゃんと断るから安心して」
誠に余計な心配をさせてしまったと思い、私はなるべく明るく答えた。
「…うん、できればそういうのは今後もやめてほしいかな」
「そうだよね。ごめんね」
そう言って、食べ終わった夕食の食器を台所に運んだ。
「ところでさ、今度の実習なんだけど———」
何事もなかったかのように、誠が話題を変えた。嫌なことや気まずいことがあっても、あとに引きずらない誠はすごいと思う。おかげでケンカらしいケンカはしたことがないし、一緒にいてとても気が楽なのだ。
テレビを見ながら大学の実習について話している誠の姿を見て、国見君のことを考え過ぎるのはやめようと思った。漠然とした喪失感はまだ心の中にぼんやりと残っているが、時間が経てばきっと忘れていくだろう。
誠が自分のアパートへ帰ったあと、国見君に昨日のメールの返信をした。
[返信、遅れてごめんね。春休みは帰省するんだけど、彼氏に相談してみたら『そういうのはやめてほしい』って言われたから、二人では会えないかな。でも、志保が『また春休みに4人で飲もう』って言ってたよ]
ただ断るだけでは悪い気がして、成人式のあとで志保が言っていた言葉も添えた。
男女4人で飲みに行くことについては誠も反対はしなかったし、そこで国見君と会って話せるならそれでもいいかなとも思った。
「まだ寒いねぇ。今回は私たちのほうが早く着いちゃったね」
駅前のロータリーにあるベンチで志保が寒さで縮こまっている。3月上旬とは言っても、夜はまだ冷える。
「うん、まだ19時まで15分あるよ」
私もコートのポケットに手を突っ込んで答えた。
大学2年生の学年末のテストも無事にクリアして、2月末から春休みに入っていた。春休みに入ってすぐ誠と二人で少し遠出をしたり、友達と一緒に遊んだりしていたが、3月上旬から中旬にかけての約2週間は静岡に帰省することにした。
帰省すると志保から「4人で飲みに行こう」と連絡がきて今日に至る。1月に国見君に[二人では会えない]と伝えたこともあり国見君に会うことが少し気まずいけれど、また会えることが嬉しいことも事実だった。
成人式以降に胸の中で見え隠れしていた喪失感は、時間が経って薄れてはいるけれど消えることはなく、未だにふとした瞬間に姿を見せることがある。そんなときは、やはり国見君に会いたいと思ってしまうことに、後ろめたさを感じたりしている。
「あ、来たんじゃない」
志保がベンチの背もたれから体を離して、前方を指さした。
目を向けてみると、通り沿いのお店の明かりに照らされながら歩いてくる国見君と松崎君が見えた。
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