第70話 国見青音 20歳 ―成人式③—

 俺、佐伯、立花、林の4人で19時前に駅前の居酒屋に到着すると、居酒屋の前は同級生たちであふれかえって賑わっていた。


 入り口付近の人たちから順番に、次々に店内に案内されていった。


 中に入るとみんなそれぞれ好きなところに座っている様子である。居酒屋を貸し切っているため、テーブル席のほかにも座敷もあったりして、とりあえず俺たち4人は奥まった座敷席につくことにした。


 店内を歩きながらあちこちに視線を向けてみたが、大月さんの姿を見つけることはできなかった。店内の人口密度が高く、壁や仕切りなどもあるため大月さんを見つけるのは大変そうである。


 しばらくすると「それでは、乾杯!!」と二次会の幹事の声が聞こえてきて、二次会が始まった。


 俺はウーロンハイを注文して、佐伯、立花、林もそれぞれカクテルやサワーを注文している。


「立花、あのあとは外山さんと話せたのか?」


「おう…、まぁちょっとだけ」


「連絡先聞いた?」


「いや…」


 立花は苦笑いをしながらカクテルを飲んでいる。


「一応、連絡先聞いてきなって言ったんだけどね」


 佐伯が補足する。


「外山さんは二次会に来てないの?」


 林が立花に尋ねた。


「うん、二次会は出ないって言ってた」


 賑やかな雰囲気の中で、立花だけはどこか寂しげな表情をしている。


「そうか。そんなときはとりあえず飲もう!」


 林が立花を励ますように声をかけ、二人でグラスの中身をグイグイ飲み干していく。


 しばらく4人で話をしていると、真っ赤な顔でうつろな目になってきた立花が大きなため息をついた。


「はぁ…。やっぱり外山さんに連絡先聞いとけばよかった」


 そう言ってテーブルに突っ伏したまま、立花が動かなくなり、耳を澄ませてみると寝息が聞こえてきた。


 そういえば立花はとてつもなくお酒に弱いのだ。高校生の頃に立花家でバーベキューをしたときには、立花の父親が飲んでいたビールをほんの少し舐めただけで顔が真っ赤になり、「気持ち悪い」ともらしていたことを思い出した。


 案の定、今日もカクテルを一杯飲んだだけで、あっという間に顔や身体が真っ赤になりすぐに寝てしまった。もはや、顔は真っ赤というよりも赤黒くなっていて少し心配になる。


 胸の奥深くからのため息を吐いて寝てしまった立花を横目に、残った3人で話をしているとポケットのケータイが震えた。


 ケータイを取り出し画面を見ると、大月さんからのメールの着信であった。


[国見君、どこにいる?]


 メールを読んで慌てて立ち上がった。佐伯と林が驚いて「どうした?」と尋ねてきたが、詳しい説明は省いて「ちょっと行ってくる」と言い残して座敷を出た。


 二次会は始まったばかりだし、まだ時間はあると思っていたが、そんな悠長に構えている余裕などないのだ。大月さんと話せる貴重な時間は少しでも長いほうがいいに決まっている。


 店の中を歩き回りながらキョロキョロ見回していると数人の友人に声をかけられたが、軽く言葉を交わすにとどめて大月さんを探した。

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