第68話 国見青音 20歳 ―成人式①—

「おはようございます!」


 玄関のほうから立花の大きな声が聞こえた。


 ネクタイを締めて急いで玄関に行くと、スーツ姿の立花、佐伯、林の姿があった。


「お、3人ともビシッときまってるね」


「国見もな!」


 考えてみれば3人のスーツ姿を見るのは初めてだった。当たり前だが、中学や高校の制服とは違って20歳らしく見える…、気がする。


 玄関を出ると、あまりの暖かさに驚いた。風もなく空は晴れ渡っていて、穏やかな成人式になりそうな気がした。


 成人式は地元のコミュニティーセンターが会場となっており、会場までは家から徒歩5分程度であるため、4人で家に集まってから一緒に向かう約束をしていたのだ。


 式典は10時30分からだが、受付開始は10時からとなっているため、受付開始に合わせて会場に向かうことにした。


 会場に到着すると、すでにたくさんの新成人たちが集まっていた。この会場での成人式は同じ中学区の新成人が対象となっているため、見回せば懐かしい顔ばかりである。しかし、中には中学卒業からの5年間で信じがたいほどの変貌を遂げている人もいて、見た目だけでは誰なのかわからない人も混じっていた。


 久しぶりに再会した友達と話をしながらも、俺の意識は約160人の新成人の中から大月さんを探し出すことに向けられている。相手の話に相槌を打ちながらあちこちに視線を向けてみるが、なかなか大月さんは見つからない。


 結局、大月さんを見つけられないまま式典が始まり、地元の少年少女たちによる和太鼓や市長のあいさつ、新成人の言葉などが滞りなく行われ、ヤンチャで元気な新成人が暴れるようなこともなく無事に式典が終わった。


 見た目は派手で今にも暴れ出しそうな雰囲気を醸し出している同級生もいたが、俺たちの世代は中学当時の教師たちに言わせると「勉強はできないけど、優しい子たち」だったらしく、20歳になってもそこは変わっていなかったようで安心した。


 式典が終わると、みんなそれぞれに久しぶりに再会した友人たちと写真を撮り始めた。コミュニティセンターの中はワイワイと賑やかくなり、俺も再び大月さんを探して周囲を見回していると、隣で立花が「あっ…」と声をもらした。


「ん?どうした?」


 俺が尋ねると「あぁ、ちょっと…」と言って視線が泳いでいる。立花がさっきまで見ていたであろう方向に目を向けてみると、立花がソワソワしている理由がわかった。


 日の当たる窓際に、透けるような白い肌の女性が一人で立っている。白い肌と赤い振袖のコントラストが印象的だ。


「おい立花、あそこにいるのって外山さんだよな」


「え…?いや、あの…、本当だ。全然気づかなかったわ」


「嘘つけ。気づいてただろ」


「…お、おう」


 誰の目から見てもわかるほどに動揺している立花が可笑しくて笑ってしまった。


 外山さんは立花が中学の頃から片思いしていた女子なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る