第67話 大月千尋 20歳 ―photograph③―
「…、あと一週間で成人式だな」
景色を眺めながら国見君が言った。
「大月さんも成人式出るよね?」
「あ、うん。もちろん出席するよ。その時にも一緒に写真撮ろうよ」
「うん、そうしよう。大月さんは振袖着るの?」
「もちろん。一回きりの成人式だしね。国見君はスーツ?」
「ああ、俺は袴って感じじゃないだろ」
国見君が派手な袴を着ている姿を想像すると、可笑しくて笑ってしまった。
「うん、そうだね。袴って感じじゃないかも。弓道の袴は似合ってたけどね」
今度は国見君が笑った。
「そうか? ありがとう。でも、さすがに成人式に弓道の袴は着ていけないよな」
そうだよねと言って、二人で笑い合いながら、眼下に広がる景色を眺めている国見君の横顔に、胸が苦しくなる。
———あぁ、なんで今頃になってこんなに楽しく話せているんだろう。
国見君は私に恋人がいるのかを聞いてこないけれど、もう知っているのだろうか。それとも、私に恋人がいるかどうかなんて気にもしていないのだろうか。
年末に居酒屋で話したときに、国見君は彼女がいないと言っていたけれど、気になっている人くらいはいるのだろうか。
今さら国見君の気持ちを知ったところで仕方ないことだとわかっているけれど、なぜか気になってしまう。
「ねぇ、そういえばこの前集まったときに彼女はいないって言ってたけど、国見君は気になっている人はいたりするの?」
「気になっている人か…」
国見君は澄んだ空を見上げて、少し考えてからこちらを見た。
「そうだな、気になっている人はいるよ」
「そうなんだね。どんな人なの?」
尋ねながら、『もしかして私…、ってことはないよね』と一瞬頭に浮かんだ考えを即座に否定した。私には誠がいるくせに何を考えているんだ、と心の中で自分の頭をポカッと叩いた。
それに、この間再会するまで連絡も取っていなかったのだから、私のことなんて気にしているわけがないではないか。
「どんな人なのか…、俺もまだよくわからないんだと思う」
「そっかぁ。その人のこと、これから知っていけるといいね」
自分の心が動揺している気がして、それ以上突っ込んで聞くのはやめた。
その後も少しの間他愛のない会話をして、お昼の時間になったので帰ることにした。帰りも国見君が家まで送ってくれて、「じゃあ、また成人式で」と言って別れた。
笑顔で別れたのに、この胸の空虚感はなぜなのだろう。
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