第64話 国見青音 20歳 ―稲妻④―
ベッドに入り布団を被っても、一向に眠気は襲ってこない。目を閉じれば大月さんの姿ばかりが思い浮かび、再会の瞬間の稲妻がまだ体中を走り回っている。
しかし、同時に大月さんには彼氏がいるのかもしれないという絶望感も胸に重くのしかかっている。
ただ、どうしようもなく大月さんに会いたい。彼氏がいようがいまいが、とにかく大月さんに会いたい。ついさっきまで居酒屋に一緒にいたのに。
中学、高校と俺の自分勝手さで大月さんを傷つけてしまったことはわかっているが、なんとかもっと大月さんに近づきたいと思ってしまう。
おそらく、これが俺にとって初めての恋心なのだ。今までこんなにも誰かのことを好きだと感じたことはなかった。
———なんとか、大月さんに会えないだろうか。
誰もが寝静まった夜の片隅で、大月さんに会うための口実を考えてみる。約二週間後の成人式でも会えるはずだが、その前にもう一度会えないだろうか。
目を閉じてああでもないこうでもないと考えて、寝返りばかりで眠れない夜だったが、アルコールのおかげかいつの間にか眠りに落ちていたようだ。
翌朝、メールの着信音で目が覚めた。目覚めてもなお胸はやんわり締めつけられているような感じがする。
ケータイのメールを確認すると「大月千尋」と表示されていて、頭にかかっていた靄が一気に吹き飛び、嬉しさが噴き上げてくる。
こんなふうに大月さんからメールが来るのも二年ぶりくらいだろう。
[おはよう。昨日は楽しかったね、ありがとう。また、みんなで集まりたいね]
短いメールだったが、それでも何度も読み返した。
高校の頃と同じただのメールなのに、恋をしているとただのメールもこんなにも嬉しいものなのか。
一気に目覚めた頭でメールの返信内容を考えた。昨夜、眠る直前まで考えていた大月さんと会うための口実。それをメールで伝えてしまおう。
[おはよう。楽しかったね、こちらこそありがとう。また、集まろう! 急なんだけどさ、一緒に写真を撮ったことがなかったから、久しぶりに会えたし二人で写真を撮りたいと思うんだけど、近いうちに会えないかな?]
急に一緒に写真を撮りたいだなんて意味不明だなと思いながらも、他に口実が思い浮かばなかったことと、本当に二人で写真を撮りたいという気持ちもあった。
素直に「二人で会いたい」と伝えられればいいのだろうが、彼氏がいるかもしれないと思うと怖気付いてしまった。
ケータイを気にしながら朝食を食べたが、返信が気になっているせいか、恋心のせいか、ほとんど味はしないし無理矢理飲み込んでいるようだった。
大晦日といっても日中は特に予定もなく、夜は毎年のごとく中学の同級生である佐伯、立花、林と集まることになっているため、朝食後もケータイを気にしながらだらだらと過ごした。仕事に行っているときには体調不良が付きまとい、常にどこか苛立っているような毎日なのに、こうして連休に入った途端に身体は好調で気持ちもすっきりしている。しかも、大月さんと再会をしたことで、分厚い雲に覆われた暗い毎日に光が差し込んできたような気がする。
昼過ぎになり大月さんからの返信が届いた。大月さんの返事はOKなのかNGなのか、メールを開くのが怖くて、少し震えている指先でメールを開いた。
[たしかに二人で写真撮ったことなかったよね。年明けの3日でよければ空いてるよ]
ということは、OKということだ。3日は特に予定はないし、仮に予定があったとしても全てキャンセルしてもいい。
[ありがとう。じゃあ、3日の午前中に迎えに行くよ]
メールを返信しながら思わずニヤけてしまった。そして、3日に大月さんと二人で会える嬉しさで、胸の苦しさはすっかり消えていた。
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