第60話 大月千尋 20歳 ―漸近線②―

 電車に揺られながら睡魔と戦い、途中敗北しながらも3時間が経過する頃には地元に戻ってきた。


 駅までは友達の志保が車で迎えに来てくれた。


 志保は実家から県内の大学に通っていて、今日帰省することを伝えたら、迎えに行くからついでにランチを食べに行こうという話になっていたのだ。


「千尋、久しぶりだねぇ」


 志保は車の外で待ってくれていた。


「久しぶり、志保。迎え来てくれてありがとう」


「全然いいよ。お腹空いたからさっそくランチ行こう」


「うん、そうしよう」


 車に乗り込み、志保の運転でお店に向かった。





「それで、彼氏とはどう?うまくいってる?」


 オムライスを口に運びながら志保が聞いてくる。


「うん、おかげさまで無事に一年経ったよ」


 私もドリアを口に運びながら答えると「いいなぁ千尋。ニヤニヤしちゃってさ」と言いながら次々にオムライスを口に運んでいく。


「彼氏、どんな人なの?」


 聞かれて誠をイメージした。


「う~ん、すごい明るくて行動力があるよ。あと、素直というか率直な感じかなぁ」


 私の言葉を聞いて、志保はスプーンを口にくわえたまま何度もうなずいている。


「そっかぁ、うらやましいなぁ。私も彼氏ほしいなぁ」


 志保は高校2年生の頃に彼氏と別れて以来、彼氏募集中を掲げながら今日に至っているのだ。


「志保は誰か気になる人とかいないの?」


「ん~、今は特にいないんだよね。大学も女子が多くてさぁ。どこかに出会いが転がってないかな」


「近くに転がってればいいけどねぇ」


 笑いながら答えると、志保が「あ、そういえば」と何かを思い出したように私を見た。


「この間さぁ、コンビニで久しぶりに国見に会ったよ」


 志保の言葉に心臓がトクンと小さく跳ねた。


「高校の頃より少しは垢抜けてたよ」


 高校の頃の国見君はそんなに垢抜けてなかっただろうかと思って、可笑しくなった。


「そうなんだね。そういえば、もう全然連絡もとってないなぁ」


 高校を卒業する少し前から国見君とは連絡をとっていなかった。大学生になってからも、時々連絡をしてみようかと思ったこともあったが、気まずい感じがして結局連絡をすることはないまま時間は過ぎた。


 国見君はどんなふうに過ごしているのか気になることもあるけれど、「もし彼女ができていたら…」と思うと、そんなことを知りたくないと思っている自分もいる。私自身には彼氏がいるくせに、国見君に彼女がいるなら知りたくないだなんておかしな心情だと思う。


「千尋も連絡とってないんだね。私も連絡とってないけど、成人式前に国見も誘って飲みに行くのはどう?」


「え…、国見君と三人で?」


 志保からの唐突な提案に動揺してしまった。


「うん、それか国見にもう一人男子を誘ってもらって4人でもいいけど」


 なぜ私はこんなに動揺しているのだろう。今は国見君とはなんの関係もないし、友達として普通に会えばいいだけじゃないか。


「…うん、そうだね」


 それだけ答えると、志保は嬉しそうに「じゃあ、国見には私から連絡しとくよ」と言ってバッグからケータイを取り出した。

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