第59話 大月千尋 20歳 ―漸近線①―

 大学に入学して二度目の冬。学校は冬休みに入っていた。


 今年も年末年始は実家に帰るために帰省の準備をしていると、ケータイの着信音が鳴った。メールの受信画面を確認すると、「高宮誠」と表示されている。


 つい先ほどここから帰っていったばかりだったので、なんだろうと思いメールを確認した。


[さっき聞き忘れてたんだけど、明日は8時に迎えに行けばいい?]


 明日の午前中に静岡に帰省するつもりなのだが、岐阜駅まで誠が送ってくれることになっていた。


[うん、8時でお願いします。ありがとう]


 メールを返信して時間を確認すると、すでに23時を過ぎていたので、さっさと帰省のための準備を済ませて、お風呂に入り、明日に備えて寝ることにした。


 いざ布団に潜り込んで「今年ももうすぐ終わりか」と思うと、今年一年の出来事がまぶたの裏に思い浮かんでくる。


 ちょうど一年前に誠に告白されてから、あっという間に一年が経った。大学の授業や実習、テストで忙しい一年だったと思うけれど、その合間にお互いの家で過ごしたり、二人で少し遠くへ出かけたりしながら楽しく過ごしてこられた。


 ―――もし、国見君と今も一緒にいたなら…。


 いまだにそんな考えが頭をよぎることがある。


 誠と過ごす日々は、国見君と付き合っていた頃とはまったく違う日々だった。恋人と過ごすというのはこういうことなのかなと、ぼんやりと考えた。


 一年のことを振り返っているうちに睡魔が襲ってきて、いつの間にか眠りにおちた。





 鳴り響くアラームに目を覚ますと、まだカーテンの外は薄暗かった。時間を確認すると6時と表示されている。


 眠気に負けそうになりながらもなんとか布団から抜け出し、朝食を済ませて身支度を整えて、誠の迎えを待った。


 帰省のための小さなスーツケースを引きずって駐車場で待っていると、約束通り8時に誠が迎えに来てくれた。


 スーツケースを後部座席に入れて、助手席に乗り込むと「千尋、よく寝坊しなかったじゃん」と誠がからかってくる。


「全然余裕だったよ。誠こそ、よく遅刻しなかったね」


 私も負けじとからかってみる。


「俺は朝強いからね。朝5時でも迎えに来れちゃうよ」


 得意気に言っているが、確かに誠は大学でもデートのときにも遅刻してきたことは一度もない。


「じゃあ、次は5時にお願いしようかな」


「まぁ…、5時は言い過ぎたかな」


 そんな冗談を二人で言いながら、岐阜駅に向けて車は発進した。


 朝は道路も混みあっていないおかげで、あっという間に岐阜駅に到着した。


「送ってくれてありがとう」


「次に会うのは成人式の後だな。千尋の振袖姿見たかったけど、俺も成人式あるし、こればっかりは我慢だよなぁ。ちょっと寂しいけど、よいお年を」


 誠が涙を拭う真似をしながら言った。


 今回の帰省は今日12月27日から、1月11日までを予定している。三が日明けに一度岐阜に戻ってこようかとも考えたが、どうせ1月9日には静岡で成人式があるため、成人式が終わるまで静岡で過ごすことにしたのだ。


 誠もお正月は静岡に帰省するそうだが、三が日明けには友達と約束があり一度岐阜に戻ってくるらしい。


「そうだね、寂しいけどまた連絡するね。私の振袖姿はちゃんと写真に撮ってくるから、後でちゃんと見てもらおうかな。じゃあ、よいお年を」


 そう言って車を降りた。


 帰っていく誠を見送って、私は改札へ向かった。



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