第58話 国見青音 19歳 ―半夜⑥―
焼肉店を出ると、相変わらず雨が降り続いていた。
車に乗り込むと「さて、お腹もいっぱいになったし、ドライブでもしますか」と言って、西野さんはシートベルトを締めた。
「ドライブ?」
「うん。焼肉だけ食べて解散じゃ味気ないでしょ? どこでもいいけど、とりあえず走ろう」
西野さんに言われるまま車を発進させて国道に出た。しばらく他愛のない話をしながら走り続けると、左手に海が見えてきたが、あいにくの雨で空も海も灰色に霞んでいる。
「国見はさぁ、気になってる人とかいるの?」
助手席の窓のふちに頬杖をつきながら西野さんが言った。
「今は特にいないかな」
「ふぅん。じゃあ、どんな人がタイプなの?」
「タイプか…。あまり考えたこともないけど、強いて言えば細身で身長が高い人かな」
自分で言いながら、なぜ細身で身長が高い人が好みなのかは自分でもよくわからない。俺自身の身長が180cmあるから、なんとなく身長が高い人がいいのかもしれない。
「なるほどねぇ。じゃあ私もアリじゃない?」
からかうように笑いながら俺の顔を覗き込んでくる。
たしかに西野さんも身長は170cm近くあるし細身でもあるが…。
「まぁ…、たしかに…」
「なに返事に困ってんの! 国見って本当にからかいがいがあるよね」
俺が言い淀んでいると、西野さんが可笑しそうに笑った。
「うるさいな。真面目が売りなんだよ」
「真面目過ぎでしょ。もっと気楽に構えてればいいんだよ」
「そうだよな。わかってるつもりでも、なかなかそうできないんだよな…」
ドライブしている間に仕事のことやプライベートなことなどいろいろと話をした。西野さんの家はもともと地主だったため大きな土地や家があるということや、弟が三人いて家の中はケンカが絶えないということ、今は彼氏がいないことなど、こちらが聞かなくてもいろいろと話してくれた。
雨の中をぶらぶらと二時間ほどドライブをして、西野さんの家の前まで戻ってくると、「ん~」と西野さんが両手を上げながら伸びをした。
「いやぁ、運転ありがとう。国見、今日楽しかった?」
シートベルトを外しながら西野さんが言う。
「ああ、楽しかったよ。気分転換できた」
「それならデートに誘ってよかった。なんか国見悩んでそうだったからさ」
やっぱりそういうことか。西野さんは俺のことを心配して誘ってくれたのだ。
見た目はやんちゃそうなのに、普段はあまり関わりのない同期の俺を誘って、いろいろ話を聞いてくれて、優しい人だと思った。
実際、西野さんと話をして気持ちがすっきりしていた。
「誘ってくれてありがとう。とりあえず、また月曜から働けそうだよ」
「まぁ、無理しないように。私も楽しかったから、またデートしよ」
いたずらっぽい笑顔を見せて、西野さんは車から降りた。
お互いに「じゃあ」と言って、西野さんは雨の中を門の向こうへ小走りで去って行った。
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