第56話 国見青音 19歳 ―半夜④―

 門から見えたアメリカンバイクは西野さんがいつも乗っているバイクだった。まさかこんな大きな家に住んでいるとは思っていなかったため驚いた。


 門の中に車で入っていっていいのかもわからないため、とりあえず門の前に車を横づけして西野さんに電話をすることにした。


 呼び出し音が鳴った瞬間に西野さんが出た。


『あ!もう着いた?』


「多分着いたと思う。門の前に停まってるけど…」


『オッケー。今行く』


 そう言って電話が切れた。


 そのまま待っていると、門の向こうから着物を着た70代くらいの女性と、西野さんが歩いて来た。着物の女性が傘をさし、その下に西野さんが入っている。西野さんはライダースジャケットにスキニージーンズという服装で、和服の女性と並んで歩いていると違和感を感じる。


「おはようございます」


 運転席の窓を開けてあいさつをすると、西野さんは「おはよ。迎えサンキュー」と言って、助手席側に回り込んできた。


「こら弥生。迎えに来て下さったんだから、ちゃんとお礼を言いなさい」


「はいはい。わかってるよ」


 和服の女性に言われて、西野さんは軽く返事をしながら助手席に乗り込んで来る。


「おはようございます。弥生の祖母です。雨の中をすみません。弥生をよろしくお願いします」


 和服の女性に丁寧に頭を下げられて、一応俺も車から降りてあいさつをしようかとドアに手をかけたが、西野さんに「いいって、いいって。濡れるし」と言われ止められた。


 結局、車に乗ったまま頭を下げて、とりあえず出発することにした。


「あ~ぁ、私って雨女なんだよね。せっかく国見をバイク乗せてやろうと思ったのに」


 西野さんが窓の外を眺めながらぼやいている。


「確かにちょっと乗ってみたかったかも」


「でしょ? まぁ、またの機会だね」


 またの機会があるのだろうかと思ったが、あえて聞くことはしなかった。


「それで、行き先って決まってるの?」


 車を走らせながら俺が問うと、西野さんがニヤッと笑った。


「もちろん。焼肉行こう」


「えっ、焼肉?」


 予想外の提案に思わず聞き返してしまった。


「何? なんか文句ある?」


「いやぁ、まだ10時過ぎだし…」


 こんな時間から焼肉を食べることを考えたことがなかったため、店自体がやっているのかもわからないが、西野さんは俺の心配を鼻で笑った。


「大丈夫、大丈夫。知り合いの店だから。次の信号を右ね」


 知り合いの店なら心配はないだろうが、そもそもこんな午前中から焼肉を食べることに驚きだった。


 西野さんに言われたとおりに信号を右に曲がると、片側一車線ずつの国道に出た。道の両側には飲食店やガソリンスタンド、靴屋やアパレルショップが並んでいる。


 しばらく走って行き「あのコンビニのとこを左に曲がったらすぐだよ」と西野さんに言われて左折すると、すぐ左側に焼肉屋の看板が見えた。


「ここ?」


「そうそう。さすがにまだお客さんはいないね」


 焼肉を食べる時間には早すぎるという自覚はあるようだ。


 駐車場に車を停めて店内に入ると、頭にタオルを巻いた50代くらいの強面の男が出迎えた。

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