第52話 大月千尋 19歳 ―新たな季節⑤―

 私は普段は歩きか自転車での移動が多いため、今現在この車がどこを走っているのかは詳しくはわからないが、少し離れた山の上に岐阜城が見えている。


 ドライブ中も車内はゆずの曲が流れ、高宮君の軽やかなトークであっという間に時間が流れていった。


 市街地を走ったり、山間の道を走ったりしているうちに日が沈み、薄暗くなる頃には見慣れた景色の中に戻ってきた。


 私の住むアパートまであと少しというところで、高宮君が車を路肩に停めた。


「どうしたの?」


 私が問うと、珍しく高宮君が少しの間黙り込んだ。


「…あのさ、大月さんは彼氏とか、好きな人とかいる?」


 高宮君に問われドキッとした。彼氏はいない。好きな人は…。


 国見君のことが頭をよぎった。寒い夜に、隣で空を見上げている国見君の横顔を今でも思い出すことができる。


 ―――国見君は今頃どうしているだろう。彼女はできたのかな…。


 そこまで考えて、思考を止めた。


 私はいつまで国見君のことを考えているのだろうか。もう連絡さえもとっていないじゃないか。それに、もう戻らないと決意をして手紙を渡したはずだ。きっと国見君だって新しい恋をしたりしているはずだ。


「…彼氏もいないし、今は好きな人もいないかな」


「そっか!」


 高宮君の大きな声に驚いて隣を向くと、嬉しそうに笑っている。


「じゃあさ、俺と付き合ってもらえないかな?」


「あ、えっと…」


「初めて見たときから気になっててさ、しかも同じ静岡県出身だし、話しやすくていつの間にか完全に好きになっちゃったんだよ。どうかな? 急過ぎるかな?」


 私が返事をする間がないほど、言葉が一気に押し寄せてくる。高宮君も緊張しているのかもしれない。それでも、高宮君は素直でストレートに気持ちを伝えてくれる。そのことが嬉しかった。


「…うん、ありがとう。私でよければよろしくお願いします」


 顔が熱くなってきて真っ赤になっていそうだが、ちょうど車内が暗くて助かった。


「マジか!ありがとう!良かったぁ、緊張したぁ。 今日はずっと告白しようと思ってて、ずっと緊張してたんだよ。昼に食べたパスタの味もよくわからないくらい緊張してた」


「そうだったの?全然緊張しているなんてわからなかったよ」


「俺、緊張すると喋り過ぎちゃうんだよ」


 そう言って笑っているが、たくさん喋るのはいつも通りな気がして可笑しくなった。


「高宮君、いつもたくさん喋ってるけどね」


「確かに!よく言われる」


 二人で笑い合って、あと少しの距離を車でアパートまで送ってもらった。


「今日は楽しかったよ、ありがとう。これからよろしく」


「うん、楽しかったね。こちらこそありがとう。これからよろしくね」


 そう言って車を降りた。


 まだ高鳴っている胸の鼓動を感じながら、高宮君の運転する車を見送って部屋に戻った。

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