第51話 大月千尋 19歳 ―新たな季節④―

 朝、目覚ましのアラームを7時にセットしてあったが、アラームが鳴るよりも前に目が覚めてしまった。寝坊してしまわないか心配で、夜中も何度か起きてしまっていたが、頭はすっきりしている。


 高宮君と出かけることが楽しみで早起きしている自分が、遠足前の小学生のようで可笑しくなった。


 カーテンを開けると朝陽が差し込んできた。今日もよく晴れている。いつものように一度こたつに入り温まっていると、メールの着信音が鳴った。


[おはよう!今日はよろしく! 楽しみで早くに目が覚めちゃったよ 笑]


 高宮君も私と同じように、遠足前の小学生のようになっているようで笑ってしまった。


[おはよう。こちらこそよろしくね。 私も早起きしちゃったよ]


 メールでやりとりをしながら朝食を食べて、食器を洗って、歯を磨いて、洗濯をして、身支度をして…、といつものルーティンをこなしていくが、気分が浮ついているせいか、いつもと同じ作業も楽しく感じる。


[そろそろ迎えにいくよ]


 数分前に高宮君からメールが来ていた。[お願いします]と返信をして、アパートの外で待っていることにした。


 アパートの駐車場で待っていると、間もなく高宮君の車が入ってきた。空いているスペースに車を止めて、高宮君が降りて来る。


「お待たせ!無事に迷わず来れたよ」


「ありがとう。わりとうちのアパートはわかりやすいよね」


「いやぁ、なんだかちょっと緊張するな。自分から誘っといてなんだけど」


 笑いながら高宮君が言う。


「うん、なんだか緊張するね」


 緊張していることも隠さず言ってくれるので、私も話しやすい。


 車の助手席に乗り込むと、車内には「ゆず」の曲が流れていた。


「あ、ゆずだ!高宮君も聴くの?」


「うん、ゆず好きでよく聴いてるよ。大月さんも好きなの?」


「私も昔から好きで、よく聴いてるよ」


 思わぬ偶然の共通項に嬉しくなった。


 車が走り出し、高宮君のオススメのお店に向かう最中も、ゆずの話題で盛り上がった。


 アパートを出てから20分くらいでお店に到着した。外国語で書いている店名はなんと読むのかわからないが、白い壁と店先に生い茂る豊かな緑が特徴的なおしゃれな外観のお店だ。


「パスタの専門店なんだけど、大月さんはパスタ嫌いじゃない? 勝手に大丈夫だと思って聞き忘れてた」


「パスタ好きだよ。おしゃれなお店だね」


「おしゃれだよね!たまに友達と来るんだけど、大月さんと来れてよかったよ」


 さらっと言った高宮君の言葉にドキッとした。


「あ、ありがとう」


「とりあえず入ろっか」


 そう言って高宮君がお店に入って行った。後について店内に入ると、店内はシンプルで明るく、外観に劣らずおしゃれな印象を受けた。


 案内された席についてメニューを見てみると、二十種類を越えるパスタのメニューが並んでいて迷ってしまう。


 聞いたこともないような名前のメニューもあり、しばらくメニューとにらめっこしたが、結局無難そうな「特製カルボナーラ」を選んだ。


 高宮君は迷うことなく「ミートソースとなんちゃらかんちゃら…」という長い名前のパスタを注文した。


 パスタを待つ間も、パスタが運ばれてきてからも、話は途切れることなく続き、高宮君のコミュニケーション能力の高さに感心した。気まずい沈黙が挟まれるようなこともなく、安心して過ごすことができた。


 二人ともパスタを食べ終えて一段落すると、高宮君が「ちょっとドライブしない?」と言った。私はこの後も特に予定はないし、もう少し高宮君と話がしたいという気持ちもありオッケーした。

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