第49話 大月千尋 19歳 ―新たな季節②―

 テーブルに近づいていくと、高宮君が手を上げた。


「お!大月さんもこのテーブル?」


「うん、5―3だから、ここでいいよね?」


「おー!大月さんが一緒なら良かった。くじで席決めるのってドキドキするよね。普段あまり話さない人とかだったらどうしようって思っちゃうし」


「そうだよね。緊張するよね」


 とは言ったものの、高宮君は誰とでも楽しく話している印象があり、今もこうして話してくれるので、誰と一緒の席になっても心配ない気がする。


 席に着いても気まずい沈黙になることもなく、高宮君が話題をふってくれる。


「大月さんは年末年始は静岡に帰省するの?」


「うん。一応、30日から帰るつもりだよ。高宮君も帰省するの?」


 今日が12月27日であるため、3日後には帰省する予定だ。


「俺も30日か31日あたりに帰るつもりだけど、どっちにしようかまだ決めてないんだよね。天気が怪しい感じだから、雪が降らないか心配だよな」


 高宮君は自分の車を持っているため車で帰省する予定らしいが、雪に慣れていない静岡県人からすると、雪道の運転は恐怖なのだ。


「そうだね、雪が降らないといいよね。私は電車だから少しくらいの雪なら大丈夫だと思うけど」


 私は運転免許は持っているものの、まだ自分の車を持っていないため公共機関での帰省となる。


「ちなみに、大月さんは明日、明後日って何か予定ある?」


「明日は凪咲ちゃんと出かける予定だけど…、それくらいかな」


「そっか!それじゃあ、明後日は予定空いてる?」


 不意に問われて、一瞬考えてしまった。明後日は特に予定はないが、この流れはもしかしたら高宮君に何か誘われるのだろうか。それとも、みんなでどこかへ出かけようとかそういう話なのだろうか…。


 まだ何も中身を聞いていないにも関わらず、勝手に予想している自分におかしくなった。特に予定があるわけでもないし、誘われて困ることもないので「空いてるよ」と返事をしようとしたとき、「お、二人とも早いね」「高宮と同じ席か!」「千尋ちゃんと一緒だぁ」などと背後から声が聞こえ、振り返ると同じテーブルになった残りの4人がまとめてやってきた。


 高宮君に返事をしそびれてしまったが、6人全員がそろったテーブルは賑やかくなり、次から次へと話題が移り変わっていった。やはり高宮君はその場の雰囲気を盛り上げることが上手で、私たちのテーブルが一番盛り上がっているように感じる。


 幹事の挨拶で忘年会が始まってしばらくすると、決められたテーブルから離れて別のテーブルへ行く人もいたりして、凪咲ちゃんも私のテーブルにやってきた。


 高宮君への返事ができていないことが気になっていたが、高宮君も数人の人たちと盛り上がっていて、返事を伝えられるような状態ではなかった。


 入学したばかりの頃の懇親会とは打って変わって、忘年会は大いに盛り上がって、あっという間にお開きの時間となってしまった。


 幹事による締めの挨拶も終わり、ガヤガヤと店の外へ出て行くときに高宮君に声をかけた。


「高宮君。あの、さっき聞かれた明後日のことなんだけど―――」


「お、どう?明後日空いてる?」

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