第48話 大月千尋 19歳 ―新たな季節①―
キャンパスライフといえば自由で楽しいイメージがあったが、入学後は予想以上に忙しい毎日が続き、あっという間に入学から8か月が過ぎて、気づけば年末になっていた。
静岡を離れて岐阜での一人暮らしにもすっかり慣れて、同じ学科の仲間とも打ち解けた。
忙しさのおかげで、国見君のことを思い出すことは少しずつ減っていた。高校3年の文化祭で国見君に手紙を渡してからも、時々はメールでやりとりをしていたが、二人で会うことはもうなかったし、国見君と話をしたのも文化祭のときが最後になってしまった。
高校を卒業してからはメールのやりとりもなくなってしまい、初めは国見君がどうしているのか気になっていたが、すぐに忙しい毎日に飲み込まれて気がつけば年末である。
「千尋ちゃんは忘年会行く?」
昼休みに同じ学科の凪咲ちゃんと食堂で昼食を食べていると、今月末に予定されている忘年会の話題になった。
学科のみんなで12月末に忘年会をやろうという話になっているのだ。
「うん、一応行くつもりだけど、凪咲ちゃんは?」
「千尋ちゃんが行くなら私も行こうかなぁ」
「ほとんどみんな出席するみたいだもんね」
入学してすぐの頃にも学科のみんなで集まって懇親会があったが、そのときにはまだお互いに慣れていないせいか、どこかよそよそしい雰囲気があった。
「もうみんな慣れたから、今回は盛り上がりそうだね」
「そうだね。でも、まずはその前のテストを乗り切らないとね…」
私が言うと、凪咲ちゃんは箸を止めて「はは…、そうだったね」と苦笑いしながら言っている。
私も勉強が得意というわけではないが、凪咲ちゃんは私よりも勉強が苦手なのだ。
「忘年会前に赤点とらないように頑張らないとなぁ…」
先ほどまで楽しそうに話していた凪咲ちゃんだったが、「テスト」という言葉で一気に元気がなくなっていくのがわかる。
「大丈夫だよ!もう少しだけ時間あるからコツコツやってこう」
「…そうだよね、早めにやれば大丈夫だよね!」
落ち込みやすいが、立ち直りも早いのが凪咲ちゃんの良いところだ。
冬休み前のテストが終わり、私も凪咲ちゃんも無事に乗り切ることができた。今回は後に忘年会が控えていたためか、赤点になる人は一人もいなかったようだ。
忘年会の会場は大学の近くにあるビュッフェスタイルのイタリアンレストランに決まった。約40人での予約であったため、18時からの2時間貸し切る形となったらしい。
凪咲ちゃんと一緒にレストランに到着すると、すでに半分以上の生徒が来ていた。
「はい、これ引いて」
受け付けで参加費を払うと、くじ引きを引くように言われた。どうやら席の位置はくじで決めるようだ。
くじを引くと「5―3」と書かれている。
「私は2―2だぁ」
凪咲ちゃんと一緒に手書きの座席表を確認すると、丸テーブルが7つあり、各テーブルに5~6人ずつ座るようになっている。
私は5つ目のテーブルの3番目の席ということらしい。
「違うテーブルになっちゃったね」
「うわぁ、千尋ちゃんと違うのかぁ。話しやすい人がいるといいな」
「始まればきっとみんな自由に動くよ」
「そうだね、それじゃとりあえず席に着きますかぁ」
そんなことを言いながら、私たちはそれぞれのテーブルに向かった。私の席があるテーブルは6人席となっていて、まだ高宮君しか来ていないようだ。
高宮君は私と同じ静岡県の出身で、明るくて話しやすいため、同じテーブルに高宮君がいることに安心した。
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