第46話 国見青音 17歳 ―your letter③―

 

 便箋を開くと、中学の頃と変わらない小さくて、丸みを帯びた文字が並んでいた。





【国見青音君へ


国見君に手紙を書くのは久しぶりだね。急に手紙を渡されて驚いたよね。ごめんね。


どうしても国見君に伝えたいことがあるんだけど、口ではうまく言えそうにないから手紙を書くことにしたよ。


高校一年のクリスマスの頃に、別れちゃったことを本当に後悔したよ。別れてからは二人で会うこともほとんどなくなって、寒い夜に二人で話をしてたこととか、手をつないでいたことが、本当に幸せだったんだなって気づいたよ。


高校二年になって、夏休み明けに神社で会ってくれたときにも、総合体育館に4人で練習に行ったときにも、もう一度国見君と付き合いたくて、自分勝手なことばかり言って困らせちゃったよね。


中学の頃から国見君のことが本当に好きだったし、本気でもう一度付き合いたいなって思ってたんだよ。


でも、来年の4月になれば私は県外の大学に進学するし、新しい一歩を踏み出さなきゃと思ってるんだ。


だから、これからは友達として仲良くしてもらえたら嬉しいな。


こんな手紙を最後まで読んでくれてありがとう。


それと、今までありがとう。これからもよろしくね。


大月千尋より】





 悲しいわけじゃない。べつに辛くもない。けれど、心から何かが零れ落ちていくような感覚はあって、胸のあたりの熱が失われていくような気がした。


 今までこんなにも誰かに好かれたことはなかった。けれど、今でも誰かに恋をして、心底好きになるという気持ちはよくわからない。「今ならまだ間に合うかも…」という考えが一瞬頭をよぎったが、すぐに打ち消した。好きだという気持ちもよくわからないままで、遠く離れてしまう大月さんとうまく付き合えるわけがないと思った。


 もう一度付き合ったところで、俺はきっと同じ失敗を繰り返してしまうだろうし、また大月さんを失望させることが怖い。何よりも、自分が否定されて嫌われてしまうことが怖い。


 大月さんはこんなにも気持ちを伝えてくれたのに、俺はこの状況に至っても傷つくことから逃げることしか考えられなかった。


 大月さんを失うことは惜しくない。これで終わりならば、それでもいいと思った。



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