第44話 国見青音 17歳 ―your letter①―

 今日は高校生活最後の文化祭ということで、クラスメイトたちは朝からハイテンションだった。自分たちが高校3年になり最上級生ということで、先輩に気を遣う必要もないし、何よりも文化祭と言えば他校から女子がやってくるという最高のイベントであり、このチャンスをなんとか活かそうとする男どもが躍起になっているのだ。


 開場は10時であり、まだ一時間ほど時間があるが、開場までの間は体育館で本校の学生のみの音楽ライブが催されていて、大多数の生徒が参加している。


 俺はクラスの出し物であるアトラクションの受付係であり、開場されるまでの間は特にやることもないため、留守番がてら数人しかいない静かな教室でぼんやりしていた。


 ちょうど一年前に大月さん、柳瀬さん、松崎の4人で総合体育館で弓道の練習をしたことを思い出していた。あれから大月さんとはほとんど連絡も取っていない。しばらくの間は罪悪感と自己嫌悪に苛まれて重苦しいような日々が続ていたが、気づけば罪悪感の輪郭はぼやけて、いつも通りの毎日を過ごすようになっていた。


 以前と違うのは大月さんからの連絡がほとんどなくなったことくらいで、辛さや悲しさはもう感じなかった。むしろ、大月さんとのことで色々と考えなくてよくなったことに解放感さえ感じていた。


 そんな自分の身勝手さ、冷たさ、残酷さに気づきながら「このまま二度と会わないほうが楽だ」と思っている自分がいる。


 廊下が騒がしくなってきて、クラスメイトたちが教室に入ってきた。どうやら音楽ライブが終わったようだ。


 サッカー部や野球部を中心とした、いわゆる「陽キャ」なクラスメイトたちは開場に備えてすぐに学校の中庭に向かった。そして、俺を含めた「陰キャ」なクラスメイトたちは教室にこもって開場のときを待つことになった。


 しばらくすると校内放送が入り、文化祭の開会が宣言され、開場となった。この教室は2階にあるため中庭をよく見渡すことができる。窓辺に立ち中庭を見てみると、開場と同時に地域の住民や他校の高校生、小中学生たちが入って来る姿が見える。


「けっこうたくさん来てるな」


「うん、去年も予想以上に来て大変だったよね」


「お、女子もたくさんいるじゃん」


「え、マジか!ちょっと俺にも見せて」


「可愛い子いる?」


「愚問だな」


「可愛くない子なんていねぇんだよ」


「みんな可愛く見える」


「あぁ、なんか緊張してきた」


 教室に残っていたクラスメイトたちも、大勢の入場者を見てテンションが上がり、完全に心の声が漏れてしまっている。


 俺はアトラクションの受付係として、教室の入り口にある受付場所でお客さんが来るのを待つことにした。


 開場してしばらくは校舎の2階まで来る人はまばらであったが、「陽キャ」たちが持ち前の明るさとコミュニケーション能力の高さで宣伝をしてくれたおかげで、開場後一時間が経過する頃には教室の前に列ができるほどにお客さんが増えていた。


「こんにちは。一回100円になります。やり方やルールについてはそちらで説明させていただきますので、少々お待ちください」


 次々に来るお客さんに同じセリフを繰り返して、集金をしながら人数をカウントし、性別や年齢層をメモしていく。


 ふと時計を見ると11時45分になっており、あと15分ほどで受付係を交代する時間である。相変わらず列は続いていて、次から次にお客さんがやってくる。相手の顔を十分に見る余裕もなく受付をこなしていると、他校の制服を来た二人の女子が声をかけてきた。


「国見君…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る