第40話 国見青音 16歳 ―Answer①―

 11月に入り、中学校の同級生であり大月さんと仲の良い友達でもある柳瀬さんから[千尋と松崎君と4人で弓道の練習をしに行こう]とメールが届いた。


 柳瀬さんも大月さんと同じ普通高校に進学し、弓道部に入部していた。松崎も中学の同級生であり、俺と同じ工業高校に進学し弓道部に入部している。ようするに4人とも同じ中学校出身なのだ。


 柳瀬さんからの誘いを松崎に相談してみると「もちろんオッケー」とのことだった。俺と松崎が通っている工業高校は男子の割合が圧倒的に多いため、女子と一緒に練習ができるなんてことは滅多にないことであり、羨望の対象であった。


 俺は9月に神社で大月さんと会って以降、連絡を取ることも減っていた。なんとなく大月さんに会うことに気まずさを感じて少し迷いはあったが、松崎も喜んでいるし一緒に練習をすることにした。


 練習は次の土曜日の17時に総合体育館で行うこととなった。




 朝から少し気が重たかった。松崎はというと「今日の夕方、楽しみだな!」と嬉しさいっぱいの様子である。土曜日である今日の午前中は部活があり、男子であふれかえる弓道場での練習をこなし、お昼には俺も松崎もいったん帰宅した。


 夕方になり再び学校の弓道場に道具を取りに行くと、松崎がすでに準備万端といった様子で部室に待機していた。


「他校の女子と練習なんて言ったら、みんなうらやましがるだろうな」


 満足気な顔で松崎がニヤけている。


「かもな。とは言っても中学校の同級生だけどな」


「それでも女子は女子だろ。貴重な時間だよ」


 俺だって女子と練習できることは嬉しいが、どうしても大月さんのことが気になって素直に喜べない。「そうだよな」と適当に返事を返して、俺も弓や矢をカバーやケースに入れて準備をしていく。


「それじゃ、そろそろ行くか」


 そう言って部室をあとにした。


 総合体育館に着くと、入り口の前ですでに大月さんと柳瀬さんが待っていた。17時だがすでに日は暮れて、総合体育館の人影もまばらである。


「お待たせ!早かったね」


 相変わらず上機嫌で手を振りながら松崎が言う。


「思ったより早く着いちゃったよ。なんかこの4人で練習って新鮮だね」


「4人で集まることなんてないもんね」


「そうだね。大会で会ってもそんなに話す時間もないし。来てくれてありがとう」


 松崎と柳瀬さんが盛り上がっている横で、俺は大月さんのほうを見ることができないでいた。


「国見君と千尋は最近会ってなかったんだよね?」


 不意に柳瀬さんに聞かれて、俺も大月さんも一瞬固まってしまった。柳瀬さんが俺と大月さんのことをどれくらい知っているかわからないが、大月さんから少しは話を聞いているのだろう。


「え?国見と大月さんって二人で会ってたの?」


 柳瀬さんの質問に松崎が疑問を抱くのも無理はない。家族はもとより、友達にも大月さんとの関係についてはほとんど話しておらず、ごく限られた友達しか知らないのだ。


 あまり沈黙の時間が続いても気まずくなるだけなので、さっさと答えることにした。


「あぁ、時々ね。最近は会ってないよ」


「何?どういうこと?二人は付き合ってるの?」


 松崎が興味津々といった様子でさらに質問を重ねてくる。


「いや、付き合ってないよ。まぁ、その話はおいといて、さっさと中に入ろう」


 これ以上深堀されても気まずいだけなので、総合体育館に入るよう促した。


「そうだね、せっかく練習に来たんだしね」


 大月さんも俺の意見に賛同してくれた。


「うわぁ、なんか気になるな」


 松崎はまだ聞きたいことがありそうだが、渋々総合体育館に向かって歩き出した。

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