第38話 大月千尋 17歳 ―晩夏の木漏れ日③―

「国見君はもう進路って考えてる?」


 国見君は枝を持った手を止めて、空のほうを見上げて少し考えている。


「ん~、進路は具体的には考えてないけど、とりあえず就職かな」


「大学は考えてないの?」


「考えてないなぁ。工業高校だし、ほとんどみんな就職するしね」


「そっかぁ、進学する人は少ないんだね。近くに就職するつもり?」


「うん、特に目指してる会社があるわけじゃないから、近場に就職するんじゃないかな。大月さんは進路は考えてるの?」


「うん、一応…」


 国見君に問われて、どこまで話すべきか迷った。県外の大学を考えていることを話したら、もう一度付き合うというハードルが高くなってしまう気もする。


 少し考えながら地面に落書きをしていると、隣で国見君が立ち上がった。


「進学校だし、大学に行くんでしょ?」


 県外に行くと言ったら、国見君はどんな反応をするだろうか。国見君の反応を見るのが怖い気もしたが、どうせ隠しきることはできないことだと覚悟を決めた。


「県外の…、大学に行こうかって考えてるよ」


 立っている国見君の表情は見えないが、ほんの少し驚いているような気がする。


「県外って、具体的にはどこにするか決まってるの?」


「まだ決まってないけど、取りたい資格があるから大学は限られてくるかな」


「…そっか。どんな資格なの?」


「臨床検査技師っていうんだけど、国見君は知ってる?」


 高校で行われた職業説明会で、初めて臨床検査技師という仕事を知った。この資格を取りたいと思った特別な理由はないが、興味の持てる仕事内容だったことや、医療系の国家資格ということで、将来的にも安定していそうなイメージがあって目指そうと思ったのだ。


「いや、初めて聞いたな。どんな仕事するの?」


「私もまだ詳しくわからないんだけど、病院とかで血液の検査をしたり、尿検査とか心電図とかもやるみたい」


 職業説明会で聞いて以降、自分でも簡単にしか調べていないので、ぼんやりとした答えになってしまった。


「なるほどなぁ、それが臨床検査技師っていうのか。その資格を目指せる大学って県内にはないの?」


 私が県外の大学を考えていることに対して、国見君も少しは気にしてくれているのだろうか。


「うん、県内には養成校がないみたいで…」


 私が黙ってしまうと「そっかぁ」と言って国見君も黙ってしまった。その間も蝉の鳴き声だけはうるさいくらいに降り注いでいた。

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