第37話 大月千尋 17歳 ―晩夏の木漏れ日②―

 今日も朝からよく晴れている。朝から気温もぐんぐん上昇していき、窓の向こうでは蝉の鳴き声がうるさいくらいに響いている。


 リビングに行くと、母親が朝食の準備をしていた。


「おはよう。日曜日なのに珍しく早起きね」


「うん、ちょっと午前中に久しぶりに国見君と会ってくるから」


「あら、国見君とは別れたって言ってなかった?」


「まぁ、ちょっといろいろあって…」


「ふ~ん。いろいろね」


 母親には国見君と別れたことも話してあったので、今さら隠す必要はない。


 朝食を食べ終えて歯を磨いて、身支度を整えた頃には約束の時間が迫っていた。


「それじゃあ、行ってきます」


 母親に声をかけて玄関を出ると、晩夏の日差しが容赦なく照り付けてくる。


 神社までは歩いて5分ほどであるため、歩いて行くことにした。9月とは思えない暑さで、ギラギラと輝く太陽の下を少し歩いただけで汗がにじんでくる。


 約束の神社は小さな山の上にある。神社の境内へ続く長い階段は、背の高い杉の木で日差しが遮られているため、いくらか暑さが和らいだ。階段を一段のぼるごとに、少し緊張してくるのが自分でもわかる。


 国見君と二人きりで会うのは昨年のクリスマスの頃以来であり、私から別れを切り出したこともあり、少し気まずい感じもするが、ここまで来たら引き返すわけにはいかない。


 階段をのぼりきると、杉の木に囲まれた誰もいない境内の真ん中あたりに国見君の姿があった。木漏れ日の中でこちらに手を振っている。


 今日は国見君も部活が休みのはずだが、なぜか制服を着ている。


「おまたせ。私のほうが早いかと思った」


「俺もさっき着いたばっかりだよ」


「国見君、今日も部活あるの?」


「あぁ、いや、このあと自主練に行こうかと思って制服着てきたんだよ」


「自主練かぁ。熱心だね。練習行くから神社にしたの?」


「うん、ここからなら高校まで近くなるし」


 国見君は頭をかきながら苦笑いをしている。


 こうしていざ会ってみると、久しぶりな感じはしないし、気まずい感じもしなくて安心した。


「今日は急に呼び出しちゃってごめんね」


「全然大丈夫なんだけど、何か用事?」


「うん、用事っていうか…」


 国見君に問われて、何をどう話せばいいのかを考えていなかったことに気づいた。


 国見君と別れたことを後悔しているけれど、もう一度付き合ってほしいとも言いにくいし、かといって諦めることもできない。夏休みにさんざん考えていたにも関わらず、いまだに答えを出せていないのだ。


 しばらく黙っていると、国見君がしゃがんで木の枝を拾い、地面に何か絵を描き始めた。私も国見君に倣って木の枝を拾い、てきとうに丸や三角などの図形を意味もなく描いてみる。


 話したいことがまとまらない頭で、とりあえず何か話さなければと思い、修学旅行の行き先について話題をふってみたり、最近の出来事なんかをお互いに話し合った。


 こんなふうにしていると、付き合っていたときと何も変わらないような気もしたが、目の前に国見君がいても手をつなぐことはできないんだと思うと、やはり別れてしまったことを後悔してしまう。


 やはり、まだ諦めきれないと感じた。

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