第36話 大月千尋 17歳 ―晩夏の木漏れ日①―

[久しぶり。あっという間に夏休み終わっちゃったね。夏バテしてないかな? 突然なんだけど、明日二人で会えないかな?]



 高校二年の夏休みも終わった9月の土曜日。思い切って国見君にメールを送った。


 去年のクリスマスに国見君に別れを告げてから、約8か月の時間が過ぎていた。


 別れた後も弓道の大会では顔を合わせることもあったし、時々はメールで連絡をとることもあったが、当然二人きりで会うことはなかった。


 自分から別れを切り出したくせに、なぜあんなに焦ってしまったのかと時間が経つにつれて後悔する気持ちが膨み、でもどうすることもできないまま時間が過ぎてしまった。


 夏休みの間、毎日のように国見君のことを考えながら、あきらめるべきか、それとももう一度告白するべきか自問自答を繰り返してきた。もし、もう一度付き合うことができたとしても上手くいくとは限らないけれど、今度は去年のクリスマス前のように焦らずに、もっと落ち着いて構えていられるはずだ。


 しかし、高校二年になると今後の進路についても考え始める。私は県外の大学への進学を考えていて、もう一度国見君と付き合えたとしても、一年半後には遠距離恋愛になってしまうだろう。近くにいても上手くいかないのに、遠距離恋愛になったらどうなってしまうのか心配になる。だからと言って、このまま国見君を諦めてしまえば、もうきっとチャンスはないだろうとも思う。


 まだ告白したわけでもないのに、遠距離恋愛になることを心配している自分に気がついておかしくなる。


 はっきりとした答えが出ないままあれこれと考えていると、ケータイの着信音が鳴った。


 画面を確認すると、[メール着信 1件]と表示されている。受信ボックスを開くと、「国見青音」と表示されており、一瞬心臓がトクっと跳ねる。



[久しぶりだね。夏バテはしてないけど、まだまだ暑いね。明日、大丈夫だよ。午前中の9時頃でもいいかな?]



 明日は日曜日であり、部活も休みであるため午前中も特に予定はない。



[うん、ありがとう。私は9時でも大丈夫だよ。場所は希望あるかな?]



 返信をしてエアコンを切り窓を開けると、ひぐらしの鳴き声とともにまだ夏の熱を帯びた風が流れ込んでくる。9月の夕方とはいっても、まだまだ夏が終わった気がしない。


 ひぐらしの鳴き声に耳を澄ましていると、すぐに国見君から返信がきた。



[大月さんがよければ、大月さんの家の近くの神社でもいいかな?]



[うん、神社でいいよ。じゃあ、明日の9時にね]



 てっきり小学校で会うかと思っていたが、神社で会うのは意外だった。

 とりあえず国見君と二人で会えることにはなった。あとは、もう一度告白するかどうかだが…。

 できることならもう一度国見君と付き合いたい。けれど、国見君はどう思っているかわからないし、一年半後には私は県外の大学に行くかもしれない。

 どうしたらいいのだろう。少しでいいから、国見君の気持ちが知りたい。



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