第30話 大月千尋 16歳 ―come on a my house②—

 私と国見君は遠出するでもなく、いつも学校帰りに小学校で会って話をすることを繰り返していて、こうして私の家に来ても話をして勉強をしているだけだ。


 同級生の志保からは彼氏とカフェに行ったという話や、映画を見に行った、今度はディズニーに行くというような話を聞くことが多い。みんなそんなふうに二人でいろんなところに出かけたりしているのだろうか。


 国見君からはどこかに行こうと誘われることはないけれど、国見君は小学校で私と話をしたり、今日みたいに二人で勉強したりしているだけで楽しいと思ってくれているのだろうか。本当はどこかにデートに行きたいとか考えているのだろうか。


 聞いてみたい気もするが、そんなことを聞くとプレッシャーをかけているみたいで気が引ける。


 私は二人で会えるだけでも楽しいけれど、最近では二人でどこかに出かけてみたい気もしている。遠くじゃなくてもいいから、ごはんを食べに行ってみたり、近くのお祭りやイベントでもいい。


 誘ってみたいけれど、国見君がどう思っているかわからないし…。


 そんなことをぼんやり考えていると、国見君が顔を上げた。


「どうした?」


「え、あ、いや…、国見君は楽しいのかなって思って」


 急に顔を上げた国見君に焦ってしまい、曖昧な質問をしてしまった。


「あぁ…、まぁ勉強は楽しくはないよな」


 シャープペンを指でくるくる回しながら苦笑いしている。


「そう…、だよね。勉強は楽しくはないよね」


 私が聞きたかったのは勉強のことではなかったが、自分の中でも考えていたことがまとまっていなかったので、それ以上踏み込むことができなかった。


 結局、17時近くまで話をしたり勉強をしたりして過ごして、解散することになった。


 本当は、余計なことは考えないで、素直にどこかへデートに行きたいことを伝えられたらいいのだろうが、国見君がどう思っているのかばかりを考えてしまって、今日も何も伝えられないままになってしまった。


 薄闇の中を、来たときと同じ交差点まで国見君と歩き、自転車に乗って帰っていく背中を見送った。





 それからも私の家で会うこともあったが、やはり寒くても学校帰りに小学校で会うことのほうが多かった。


 

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