第29話 大月千尋 16歳 ―come on a my house①—

 朝から空は曇っていたが、天気予報が正しければ雨が降ることはなさそうだ。今日の午後、初めて国見君が家に来るということで、朝食を済ませてから部屋の掃除や片付けをしていた。


 自分で言うのもなんだが、部屋は普段からそこそこ片付いていると思う。けれど、国見君が来ると思うとなんだか片付いていないような気がして、小物や本の位置を何度も入れ替えたり置き直したりしていた。少し寒いけれど朝からずっと窓も開けっぱなしにして換気している。



 ———これくらいでいいかな。



 とりあえず部屋の片付けを終えると、いつの間にかもう昼前の時間になっていた。


 昼食を食べていると、国見君からメールが届いた。



[13時頃に家を出るよ。10分くらいで着くと思う]



[わかったよ。家の場所わかりにくいと思うから、外で待ってるね]



 いつもと違い、自分の家で会うとなると、なんとなくそわそわして落ち着かない。


 昼食を終えて身支度をして、もう一度部屋の中が片付いているか確認しているうちに約束の時間が迫ってきた。


 私の家の周辺は住宅が密集しており、道も碁盤の目のようになっているためわかりにくい。そのため、初めて家に来る人は通りを間違えたり、家を間違えたりしやすいのだ。


 国見君には家の場所は伝えてあるが、迷わないように近くの交差点に立って待つことにした。この交差点であれば、通りを間違えたとしても国見君を見つけやすい。


 そろそろ来る頃だろうと思いながら交差点に立ち、周囲を見回していると自転車で走って来る国見君の姿が見えた。どうやら通りを間違えずに来れたようだ。


「迷わないで来れたみたいだね」


「うん、ちょっと自信なかったけど、大月さんが見えて安心したよ」


 自転車から降りながら答えた国見君の、ジーンズにセーターという姿が新鮮に見えた。考えてみれば、いつも制服姿の国見君ばかり見ていて、私服姿の国見君を見ることはほとんどなかった。


「国見君が制服着てないと、不思議な感じがするね」


 私が言うと、少し照れくさそうに国見君が笑った。


「そうだな。大月さんと会うときってだいたい制服だもんなぁ。私服もこんな感じで特におしゃれじゃないだろ?」


「ううん、そんなことないよ。シンプルでいいと思う」


 そう言っている私も、国見君と同じジーンズにセーターという服装なのだ。


 そんなことを話しながら歩いていると、家の前に着いた。


 私の部屋は一階にあるため、玄関を通らず掃き出し窓から上がってもらうことにした。母親は仕事でいないが、父親と兄弟は家にいるはずなので、なんとなく恥ずかしい。


「部屋、すごい片付いてるね。同じ女子でもうちの妹の部屋とは大違いだ」


 部屋の中を見回しながら国見君が言った。


「いつもはもっと散らかってるけど、朝から片付けたんだよ」


「そうなの?もともときれいにしてそうだけど」


「そんなことないよ。もう朝から大変だったんだから」


 わざと大袈裟に言うと、国見君も笑いながら「そっか、ご苦労様でした」と言って、二人で笑った。


 しばらくはこたつに入りながら話をしていたが、特にすることもなかったので少しだけ勉強をしようと言って、二人それぞれに学校の課題をすることにした。


 家に来てもらっても何もすることがなくて、時間を持て余してしまうのも気まずいような気がしたので、一応勉強道具を持ってきてもらっていたのだ。


 国見君は電気なんちゃら、電力なんちゃらというような電気に関係しているような教科書を開いて、何やらノートに計算を書いているようだ。


 私も数学の課題に手をつけようとしたが、どうにも国見君のことが気になって集中できない。



 ———みんなはどんなふうに彼氏と過ごしているんだろう。



 ふとそんなことを考えた。

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