第27話 大月千尋 16歳 ―under the starry sky②—

 小学校前のバス停に到着して、急いで校門前に行くと、まだ国見君は来ていないようだった。


 少し切れた息を整えながら空を見上げると、いくつもの星が輝いている。ぼんやり眺めていたら、自転車の音が近づいてきて、国見君の姿が見えた。


「ごめん、待った?」


「ううん、来たばかりだよ」


 国見君が自転車から降りて、二人で小学校の敷地内に入った。


 小学校には木に覆われた築山があって、築山のすそにはちょうど大人二人が座れるくらいの大きな岩がある。


 二人で会うときには、いつもこの岩に座って話をしている。


 今日も二人並んで岩に腰かけると、岩の冷たさがお尻と太ももに伝わってくる。


 なんとなくいつもより暗い気がして、木々の間に見える夜空を見上げると理由がわかった。


「あ、今日は月が出てないね」


「本当だな。でも、星がよく見えるね」


 国見君も夜空を見上げて言った。いつからかこうして二人で夜空を見上げて月を探すことが習慣になっていた。


 明かりが少なく国見君の横顔もはっきりは見えないが、夜空を見上げて微笑んでいるように見える。


「ねぇ、国見君。手、つなごう」


「あぁ、つなごう」


 そう言って国見君が右手をブレザーのポケットから出して、私は左手を出して手をつないだ。


 最近では二人で会うときには、こうして手をつないだまま話をしている。初めの頃は少しドキドキしてお互いに手汗をかいていたが、週に2、3回会うことを2か月以上続けてきたおかげで、今はすっかり慣れて手汗をかくことはなくなった。


「国見君の手、いつも冷たいよね」


 国見君と手をつなぐ度に思う。


「そうだな。大月さんの手はいつも温かいけど、なんでだろう」


 国見君がつないでいる手を見ながらつぶやいた。


「私はバスで移動してるし、ホッカイロ持ってるからね」


 制服のポケットから得意気にホッカイロを出して見せると「なるほどね、準備万端だな」と言って国見君が笑った。


「俺もホッカイロ持ってこようかな」


 11月にもなって夜に屋外で会うのはやはり寒い。数日前に母親から「家で会えばいいよ」と言われて悩んでいたが、国見君の手もキンキンに冷えていることだし、提案してみることにした。


「そういえば、うちのお母さんが家で会えばいいよって言ってるんだけど、どうかな?」


「家って、大月さん家ってこと?」


「うん、家だと気を遣うかもしれないけど、国見君が嫌じゃなければ」


「俺は全然嫌じゃないけど…」


 少しの間をおいて「大月さんが良ければお邪魔しようかな」と国見君が言った。


「うん、私は大丈夫だよ。じゃあ今度の日曜日は空いてる?」


 また私から誘うことになってしまって、前のめりになり過ぎていないか心配になる。


 国見君は上のほうを見ながら「日曜日は…」と言って頭の中で予定を確認しているようだったが、すぐにこちらを向いた。


「ああ、特に予定はないかな」


「それじゃあ、今度の日曜日に家に来てみる?」


「うん、じゃあ行ってみようかな。ありがとう」


 いつもは今日のように学校帰りに会っていて、休日は部活もあったりしてなかなか会えなかったため、休日に二人で会うのは初めてのことである。しかも、国見君を家に招くことも初めてで、家で何をして過ごしたらいいか不安だが、とりあえず寒さに耐える心配はなくなる。


 その後も手をつないだまま他愛のない話をして、21時前に帰ることにした。

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