第24話 国見青音 15歳 ―これは恋?これが恋?③―
「なんだか久しぶりだね」
大月さんに言われて考えてみると、たまに弓道の大会で顔を合わせることはあってもゆっくり話すことはないし、しっかり大月さんと話すのはいつぶりだろうかと思う。
「そうだな、二人で会うことなんてほとんどなかったもんな」
俺が自分勝手に逃げたせいなのだが。
「そうだよね。でも、今日は来てくれてありがとう。素敵な本だったから国見君にも読んでみてもらいたいなって思ったんだ」
そう言いながら肩にかけていた通学用のバッグから本を取り出した。
俺は本を受け取りながら、大月さんは何故こんな俺のことを気にかけてくれるのだろうかと考えていた。
俺の自分勝手な振る舞いの数々で、大月さんは傷ついていただろう。俺のことを嫌いになって然るべきだとも思う。しかし、大月さんはこうして会ってくれて、微笑んでくれる。
そんなことを考えていると、胸の奥のほうが温かくなってくるような気がする。ぼんやりしていると、大月さんが「国見君、大丈夫?」と声をかけてきた。
「あ、ごめん。大丈夫」
「ジャンルは自己啓発本らしいんだけど、物語みたいな内容になってるし、ページ数もそんなに多くないから読みやすいと思うよ」
大月さんから受け取った本を確認すると、たしかに想像していたよりも薄かった。分厚い本だったら読み切れるか心配だったが、これなら数日で読み切れそうだ。
「ありがとう。帰ったらさっそく読んでみるよ」
「うん、返してくれるのはいつでもいいし、急がなくていいよ」
「オッケー。高校はどんな感じ?もう慣れた?」
受け取った本を鞄にしまいながら聞いてみる。
「うん、だいぶ慣れたよ。勉強はちょっと大変だけど、なんとかついていけてるかな。国見君はどう?」
大月さんの息も落ち着いてきたようだ。
「俺も慣れたけど、勉強はあまり楽しくはないな。授業中は寝ちゃうことがけっこうあるよ」
「えぇ、そうなの?先生に怒られない?」
大月さんが細い目を大きく開き驚いている。俺は工業高校だからわからないが、進学校の生徒達は授業中に寝たりしないものなのだろうか。
「怒られることもあるけど、けっこうみんな寝ちゃってるから」
「そっか、それなら安心…、ってことはないか」
大月さんが苦笑いをうかべる。
直接会うまでは二人きりで会って普通に話せるか心配に思っていたが、こうして話してみると意外と自然に話せている気がする。
中学の頃には俺が大月さんを避けるようになってしまったせいで、話をすることはおろか、あいさつを交わすことさえほとんどなく、メールで少しやりとりをするくらいになってしまっていたことを思い出すと、胸がチクチクと痛んだ。
学校のことや部活のことを話しているうちに、いつの間にか空はオレンジ色から藍色に変わり、頭上では月が輝きを増している。
笑顔で話している大月さんを見て、「華奢だな」と思った。初めて会った頃は俺のほうが身長が低かったが、今では俺のほうが高くなったせいなのだろうか。
目の前にいる大月さんが、やけに頼りなく儚いような…、そんな気がした。
———抱きしめたい。
不意にそんな思いが胸の奥から湧き上がってきて自分でも驚いた。今まで誰かのことを抱きしめたいと思ったことなど一度もなかった。ギュッと抱きしめるなんていうのはテレビや映画の中での出来事で、自分とは関係のない世界のことだと思っていた。
しかし、俺は大月さんのことを、確かに抱きしめたいと思っている。初めての感覚…。これは恋なのか…。これが恋なのか…。
自分でもよくわからない。よくわからないけれど、言わなければいけないと思った。
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