第20話 国見青音 13歳 ーescape③ー

 中学3年になっても大月さんとはクラスは別々のままだった。


 中学3年になり、俺はようやくケータイを親に買ってもらい、友達ともメールのやりとりをするようになった。


 ケータイを手に入れてしばらくすると、大月さんからメールが届いた。大月さんにアドレスを教えた記憶はないが、誰かに聞いたのだろう。



[こんにちは。大月千尋です。

いきなりメールしてごめんね。ケータイを買ったって聞いたから、立花君にメールアドレス教えてもらったよ。]



 中学3年になり、立花は大月さんと同じクラスになっていた。



[こんにちは。大丈夫だよ]



 少し前までは「手紙を返すときに人に見られそうだ」と考えて返さなかったのに、メールになった途端に人に見られる心配がなくなり、わりと気楽に返信をした。


 それからは時々大月さんからメールがくるようになり、一応返信はするようになった。


 メールになってからも[今度、一緒に帰れないかな?]とか[二人で会えないかな?]というようなメールがきたが、[部活があるから]、[友達と約束があるから]というように嘘をついて断っていた。


 大月さんがなぜこんなにも俺のことを気にしてくれるのかわからない。誰から見たって俺の態度は最悪であるはずなのに、大月さんは連絡をくれる。そのことが罪悪感を募らせていく。


 この罪悪感から解放されるためには、大月さんからの誘いを断らずに堂々と彼氏らしく振る舞えばいいとわかっているが、どうしてもそれができない。俺と大月さんの関係を他人からどう思われようが関係ないと頭ではわかっているが、どうしても「付き合っている」という目で見られることを恥ずかしく感じてしまうし、ましてや周囲からからかわれることは絶対に嫌なのだ。 付き合う前に戻りたいと思ってしまう。


 結局、俺は自分の身勝手な気持ちを優先して、大月さんの気持ちをないがしろにする結論を出した。



[もう付き合うとかっていうのやめよう]



 中学3年になって2か月が経った雨の土曜日に、俺は大月さんにメールを送った。


 時間をおかず、すぐにメールの着信音が鳴り、大月さんからの返信がきた。



[それって、もう別れようってこと?]



[そういうこと。ごめん。今までありがとう]



 俺も間を置かずにすぐに返信した。

 

 中学1年のバレンタインデーから、少しだけ連絡をとるようになったくらいで「別れよう」といえるほどの関係ではなかったと思う。それでも、この中途半端な関係にはっきりと答えを出してしまいたいと思った。


 大月さんからの返信は翌日の日曜日の夕方に届いた。[わかったよ。今までありがとう]とだけ書かれていた。


 そのメールを見たとき、罪悪感は確かにその重みを増したが、「これでもう周囲の目を気にしなくていい」という解放感のほうが大きかった。



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