第19話 国見青音 13歳 ーescape②ー
中学2年生になり6か月が過ぎた。
中学2年生になると大月さんとは別々のクラスになり、意識的に大月さんを避ける必要はなくなり、クラスメイトからの視線も気にしなくて済むようになり楽になった。
「楽になった」と感じている自分の最低さに気づいていたが、いっそこのまま自然消滅してしまったほうがいいとまで考えていた。
いつものように、頭の片隅で大月さんとの関係について考えながら、部活に行くために昇降口で外履きに履き替えようとしたとき、外履きの中に小さく折りたたまれた手紙が入っていることに気づいた。
―――また、大月さんからだろうか。
誰にも見られないように制服のポケットに手紙をしまった。
クラスが別々になってからも、時々こうして大月さんから手紙がくることがあった。俺が大月さんを避けていることを、大月さんも気づいているはずなのに、「今度、一緒に帰れないかな?」とか「また電話できないかな?」というような内容の手紙が届く。
俺は一度も手紙を返していない。手紙を返すところを人に見られるのも嫌だし、手紙を無視し続けていれば、大月さんも愛想を尽かすだろうと思っていたのだ。
手紙がくるたびに、普段は見て見ぬふりをしている罪悪感の塊が、胸の奥底でずんと重さを増していく。それと同時に「もうやめてくれ」という苛立ちも募る。
今回の手紙も内容はわからないが、ポケットの中でかすかな重みをもっている。けれど、部活をして友達と話をしていると、すっかり忘れてしまう程度の重さでもある。俺の大月さんへの気持ちは、その程度なのだと自分でも感じていた。
部活が終わり、家に帰って着替えているときに、ポケットに手紙が入っていることを思い出した。
ポケットから手紙を取り出し、中身を確認してみる。
[国見青音くんへ
どうしても聞きたいことがあって手紙を書いたけど、迷惑だったらごめんね。
国見君はまだ私のことを好きでいてくれてるのかな?
大月千尋]
胸の奥底に沈んでいる罪悪感が再び重さを増していく。しかし、やはり返事は書かなかった。
バレンタインデーから大月さんは俺にとって特別な存在になり、大月さんに好きになってもらえたことが素直に嬉しかったはずなのに、いつの間にか「遠ざけたい」と思うようになっていた。
そんなことを思ってしまう原因が自分にあることはわかっている。わかっているけれど、何をどうしたらいいのかわからない。
その後、大月さんから手紙がくることもなくなった。
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