第9話 国見青音 13歳 ー運命のバレンタイン④ー

 3組の教室に入ると驚愕の光景が目に入った。なんと林が女子達に囲まれているではないか。林がイケメンなのは重々承知だが、なにもみんなで群がることはないではないか。教室を見回せば男子は他にもいるのだ。女子に囲まれている林をからかうように「ヒューヒュー」「モテモテじゃん」などと言っている男子達の痛々しさを見よ。問題なのは群がる女子達だけではない。林も悪いのだ。何故そんなにイケメンなのか。それでいて性格も良いなんて悪質極まりない。林と仲の良い俺や立花の身にもなってほしい。林が輝くほどに俺達は相対的にくすんでいくのだ。まったく自慢の友である。


 俺が一人劣等感の渦に飲み込まれそうになっていると、林がこちらに気づいた。


「あ、国見!何か用事?」


 女子達も一斉にこちらを振り向き、邪魔するなと言わんばかりにとげとげしい眼差しを向けてくる。


「うちのクラスの坂本さんが林に渡してくれって…」


 とげとげしい視線で体中を撃ち抜かれながらも、なんとか林に紙袋を渡すことに成功した。


「おう、ありがとう。後で坂本さんにお礼しに行くよ」


 さすがに慣れた対応である。これで任務完了ということで、女子達の視線から逃げるように1組の教室に帰った。


 1組の教室に戻ると佐伯も席に戻っていた。佐伯の手元には紙袋はない。もしかしたら佐伯も誰かに渡すように頼まれた同士なのかもしれないと、一縷の望みをかけて佐伯に聞いてみた。


「佐伯も誰かに渡すように頼まれた?」


「いや」


 いつも通りの端的な答えであるが、それで十分だった。佐伯はしっかりとチョコレートをもらったのだろう。優しくて気遣いのできる佐伯は「国見は?」などと残酷な質問はしてこないが、気を遣われていることに対していたたまれない気持ちになり、自分の席に戻ることにした。



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