第7話 国見青音 13歳 ー運命のバレンタイン②ー
教室に入ると、すでにクラスメイトの半分くらいが登校していた。クラスメイトの男子達からは、少なからずそわそわを感じる。
冬休み明けに二度目の席替えが行われたため、俺は初めて大月さんと離れた席になった。
自分の席につくと、再び試練が待ち受けている。「机の中」という謎めく神秘の暗がりには、可能性が満ち溢れているのだ。しかも、俺は教科書やノートを毎日家に持ち帰っている真面目な学生であるため、我が机の中は無限とも思える空間が広がり、来るものを一切拒まない。もはやチョコレートどころかケーキでも入ってしまいそうではないか。
ここで机の中を覗き込むようでは初心者丸出しの素人だ。俺はそんな恥ずかしい真似はしない。鞄から取り出した教科書やノートに神経を集中させて、机の中にしまう際のわずかな摩擦や抵抗を感じ取るのだ。
まずは机の中の左半分に教科書をしまっていく。まるで立て板の上を水が流れていくように何の抵抗も感じられない。続いて右半分にノートを慎重にしまっていくと、わずかな抵抗を感じた。そして、「カサッ」という微かな音も聞き逃さなかった。
鼓動が早くなる。しかし、ここで冷静さを失ってはならない。抵抗と音の正体を確かめるべくノートをしまうふりをしながら右手を机の中に入れていくと、指先に何かが触れた。少し震える指先で慎重につまんでさりげなく机から取り出すと、そこには小さな紙切れがあった。ぱっと見はただのゴミにしか見えないが、ここで結論を出すのはまだ早い。紙というものには裏表があるのだから、ゆっくりと裏面も確認してみる。
うむ、やはりただのゴミである。ノートかプリントの切れ端のようだ。
がっかりしたことは否めないが、落ち込んでいる暇はない。まだ今日は始まったばかりなのだ。
1時限目の授業が始まるまで佐伯と話していると、あることに気づいた。そわそわしているのは男子だけではないようだ。意中の人にチョコレートをあげようと考えているのであろう女子達も、少なからずそわそわしているのがわかった。
そんな女子達の姿を見て、「もしかしたら俺にくれようとしているのではないか」と頭をよぎる。いつもより敏感になっている俺の聴覚に「いつ渡す?」「昼休みかな」などとコソコソ話している声が聞こえてくる。
「おい国見、話聞いてる?」
佐伯との会話がすっかりお留守になっていた。
「あぁ、ごめん。なんだっけ?」
「週末、映画に行くかどうかだけど…」
もはや週末の予定などどうでもいい。女子達の会話がどうしても耳に入ってきてしまう。悩んでいるふりをしながら女子達の会話に耳を澄ましていると「今から渡しに行こう」と聞こえた。そして、クラスメイトの女子の二人がまっすぐこちらに近づいてくる。二人の手にはそれぞれ淡い色の小さな紙袋が見える。
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