第4話 大月千尋 13歳 ー席替えー

 入学式から5か月が過ぎ、夏休みも明けて二学期が始まった。クラスメイトたちもすっかり打ち解けて、それぞれに仲の良い子で集まって、自然とグループのようなものができている。


 私はテニス部で一緒になった日野彩子ちゃんと仲良くなり、今ではあーちゃんと呼んでいる。


「ねぇ、千尋ちゃん。もうすぐ席替えだけど、班長に立候補するの?」


 昼休み、男子たちはみんなグラウンドに出て行って、静かになった教室であーちゃんが顔を近づけて小声で聞いてくる。


「うん、そのつもりだけど…」


 二学期になると、みんなが楽しみにしている席替えがある。たった30人の教室の中で、席の位置が変わるだけなのに、やけにワクワクするのが不思議だ。


 一班あたり4~5人のメンバーで構成されていて、全部で7班ある。席替えの際には班長をやりたい人が立候補して、新たなる7人の班長が自分の班に入れたいメンバーを選ぶという形になっている。


「そっかぁ、千尋ちゃんは国見君と同じ班になりたいんだもんね」


 頬杖をつきながらあーちゃんがニヤニヤしている。


「もう、からかわないでよ」


「ごめん、ごめん。でも、席替え楽しみだね」


「うん、でも他にも国見君を選ぶ人がいたらどうしよう」


 心配に思っていることを言ってみたら、あーちゃんが大きく笑った。


「心配ないって!国見君を選ぶ人なんて他にいないでしょ」


 あーちゃんに悪気はないと思うが、一応私の好きな人なのだからもうちょっと気を遣ってくれてもいいのにと思う。


「そんなことわからないよ」


「ぜったい大丈夫だと思うけどなぁ。国見君のどこがいいのかなぁ」


「どこって言われても…」


 入学式の日に、突然初対面の国見君から「あんたが学級委員長やればいいじゃん」と言われたときは「なんだ、この人…」と思ったが、そのせいかなんとなく気になるようになっていた。たくさん話したことがあるわけでもないし、見た目が特別かっこいいというわけではないが、気づいたら好きになっていたのだ。


――――――――――


「次は国見青音」


 先生が名前を読み上げて、私が手を挙げると、他にももう一人手を挙げた男子がいた。


 班のメンバー決めを行う際は、新しい7人の班長と先生が放課後に集まって行う。先生が一人ずつ生徒の名前を読み上げていき、迎え入れたいメンバーの名前が呼ばれたときに挙手をするという残酷な方法だ。複数の班長に手を挙げてもらえる人気者がいる一方で、誰にも手を挙げてもらえない人もいる。二人以上の班長が挙手をした場合にはじゃんけんで決めることになっている。


 心配していた通り、他にも国見君に挙手をする人がいた。でも、ここで引くわけにはいかないし、じゃんけんをして勝つしかない。気合を入れて右手を強く握った。


「最初はグー、じゃんけんぽん」


 私は目を閉じてチョキを出した。相手は…。おそるおそる目を開けると、相手はパーを出している。


 勝った!心の中でガッツポーズを作った。


「じゃあ、国見は大月の班だな」


「はい」


 無事に国見君を班に入れることに成功してほっとした。


 その後もメンバー決めを行っていき、最終的に私の班は私と国見君、あーちゃん、杉野君の4人に決まった。


 班のメンバー決めの翌日にはさっそく席替えが行われて、私の左隣は杉野君、国見君は私の後ろで、国見君の左隣があーちゃんになった。はじめは私の隣を国見君にしようかと考えていたが、なんとなく照れくさくて後ろの席にしてしまった。

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