異本浦島氏

おとさらおろち

異本浦島氏

 今は昔、ある男が浜辺を歩いている。彼は漁師風のなりをしている。晴天であるのに、漁に出る様子もなく、妙に癇だった感じで歩いている。彼は名を浦島と言う。本名は別にあるが、人は皆彼を浦島という。代々の先祖から、彼らは浦島と呼ばれており、別段そう呼ばれるのに妙な感じはしていない。やはり浦島は名打の漁師であった。網をかければ百発百中という具合に、魚貝が大量にかかる。万祝いは彼のためにあるようなものであった。


 浜を歩いていると、前方で数人の、村の子供らが、どこから現れたのか、巨大な亀をひっくり返し、棒で打っているのを見た。亀は仰向けにされながら、地につかぬ醜い手足をバタつかせ、乾燥した腹からは体液が漏れ出し、いまわの際に生殺しに遭っている風であった。


 浦島は慌てて駆け寄り、一人の子供にげんこつを喰らわせた。


「やいっ、悪戯小僧め、何をしている」


 げんこつを喰らったこどもは、アンアン泣きだして、亀を生殺していた中のリーダー格のガキ大将がその子供の前に出てきて、


「この亀が、おいら達に噛みついてきたんだ」


 と酷いいいわけを始めた。


「馬鹿を言え、のろまな亀が噛みつくものか。亀に噛みつかれたら、お前たちこそ、亀に劣らぬのろまであろう。」


 ガキ大将は浦島に喰ってかかろうという風だったので、浦島は面倒臭くなって


「今日、村の漁師が皆漁に出ないのは、貴様らも知っておろう。村はずれの産屋で、ついに赤子が産まれた。その忌みじゃ。今日、魚も亀も殺すと、子々孫々まで漁はできなくなる。よいか、譬え亀が噛みついたとしても、本日中に魚介の類を獲ることは相ならぬ。うぬらも、漁師の倅ならば、呑むがよいぞ」


 ガキ大将はチェッっと舌打ちして、仲間を連れて帰って行った。先程げんこつを喰らわせた子供は、その後を、いよいよ甲高い鳴き声を上げながら、続いて行った。


 浦島は仰向けになって、半ば気絶しているような亀を置きあがらせ、頭を海の方へ向けた。


「オイ、起きろ亀よ。まさか死んだのではあるまい。死んでしもうたか。おい、起きるのだ。」


 亀は瀕死の体でやおら置きだし、じっと浦島を見詰めた。


「よし、起きたか。運のいい奴だ。貴様を打擲したガキどもは散らせた。早よう海に戻れ」


 亀はしばらく浦島をの目を見つめたいたが、やがて、


「不動明王、お待ち申しておりました。それがし、竜宮の乙姫の侍従にこざりまする。本日、不動明王を竜宮城へお連れ申す旨、乙姫よりしかと承り、馳せ参じた次第にござりまする。どうぞ、この亀の背にまたがり、竜宮まで。なに、さほど時間はかかりませぬ。どうぞ、どうぞ」


 浦島は、突然口を利いた亀に唖然として、返す言葉もなかった。


「いかがなさいました、不動明王。この亀の背に。早よう、お乗り下さいませ」


 浦島の額をじわっと一筋の冷汗が通った。しかし、浦島は、何をこの亀がという気になり、


「何を申す。昔から人以外の者が口を利くなど、魔性の者が変化しているに決まっているのだ。正体を現すがよいぞ」


「何をおっしゃいますか。さては、不動明王、それがしを疑っておりまするな。確かに、それがし、子供らに打擲を受け、気絶する負い目にあったこと、それを客人である不動明王にお助けされたこと、深く恥じ入っておりまする。しかし、それがし武官ではございませぬゆえ、武道には通じておりませぬ。お恥ずかしいことではありますが、何卒ご信頼のほどを」


「うーむ、妙なことを言う奴だ。俺が不動明王だと。俺はこの村の浦島と申す者。人を違えておろう」


「いいえ、そんなことはございませぬ。この亀、姿は醜く、足は遅かろうと、この目には自信を持っておりまする。この亀と話せることこそ何よりの証拠。隠しだてても無駄でございます。ささ、かかる所で問答も無用。この背にお載りなさって……」


 そう言われると、浦島は、


(ははん、これは亀め、俺に礼がしたくなったと見える。しかし、少々恥じらって、俺を不動妙王などと抜かしておるわ)


 と思い、


「よかろう、この不動明王。助けた亀の背に乗り、竜宮の乙姫とやらに目通りしよう」


 と、すかさず亀の背中に飛び乗った。


「さすが不動明王、載り方も馬に跨る如くでございます。なに、馬は陸地、亀は海中と相場は決まっておりまする。陸ではのろくとも、海中はこの亀、馬などには負けませぬ。」


 海中へ入るや否や、亀は物凄い速さで、浦島をその背に載せ、深い深い海のそこへ沈んで行った。


 海はどんどん暗さを増していく。肌には海水が心地よい涼風という感じにぶつかる。


「おい亀、お許は竜宮城とか申したな。そこはどういうところじゃ」


「はい、それはそれは、よい所でございます。古今東西の珍味がそろい、美男美女は大勢。なにより、われらが乙姫は、絶世の美女、かの大陸の楊貴妃めも、乙姫の足元にも及ばないでしょう」


「そのような美しい方が。それは楽しみにしておるぞ」


 そんな話をしながら、いつしか周囲は明るくなってきた。目を凝らすと、前方に、巨大な城塞が見えてきた。


「さあ、不動明王、あれが竜宮にございまする。」


 亀と、甲羅に乗った浦島が竜宮の城門の前まで来ると、独りでに城門は開かれた。浦島は亀から下り、その城門をくぐって行った。


「ようこそ、不動明王。長旅御苦労さまにござりまする」


 そう言ったのは、今度は烏賊であった。


「おう、烏賊か。これはまた、亀を助けたくらいで烏賊まで出てくるとは。うれしいものだ。」


「なんと、亀を助けたと。道中何やら大変なことがあったとお察ししますが」


「なに、大したことではない。どれ、乙姫とやらはどこかの」


「これは不動明王、まずは一献お受け下され。その後、われらが乙姫がおもてなしいたしますゆえ。ささ、まずはこちらへ」


 浦島は烏賊に案内されるままに、竜宮の中を進んで行った。周囲は、朱色の大きな柱に、漆を金銀が散りばめられた彫刻。なにより、浦島を驚かせたのは、海藻が林の如く聳え立つ風景であった。


「うーむ、烏賊よ。わしはかかる豪華絢爛を見たは初めてじゃ」


「はは、不動明王、お世辞はよして下され。ささ、こちらでございます」


 いつしか浦島は豪華な大広間に通されていた。烏賊は大広間の一番上座へ浦島を案内すると、「では、ごゆるりと」と言い、いそいそと消えていった。


 上座にはすでに豪華な膳が用意され、浦島が見たことのない、山海の珍味であった。


「ささ、不動明王、まずは一献」


 不意に横から酒を促す者があった。


 浦島がその声の主を見ると、まさに言葉にはいいようのない、天女のような美女であった。


「ささ、どうぞ私めの銚子をお受けなされませ」


「もらいでか。」


 と言い、浦島は、膳に用意されていた猪口を差出、酌を受けた。


「お主が、乙姫か」


「オホホ、御冗談を。私めが乙姫様などと」


「何、わしはこなたがあまりに美しいので、てっきり乙姫かと」


「私めなどと乙姫様をお比べになったらバチが当たります。それこそ、私などと乙姫様との間には、雲泥の差がありまする」


 美しい女は、また浦島の猪口に酒を注ぎながら、オホホと着物の裾で口を覆い、笑っていった。


(うーむ。これは、亀を助けたくらいで、妙なところに連れてこられたぞ)


 と、女の杯を受けながら、浦島は唸っていった。


 その後、海月や烏賊、蛸による奇妙で愉快な踊りが催されたり、海驢による浪曲が披露され宴も酣になった頃、先程の烏賊が浦島に近づき、「間もなく、乙姫が参ります」と耳打ちした。


 大広間の奥の襖が開くと、それまで大声で歓談していた魚類が、一斉にしんと静まり返り、襖から現れた女に最敬礼していった。


 女はこれまで浦島が見たこともないような美しい着物を着、着飾った頭の先から足元に至るまで、凛々しく、優雅で、それでいて他を寄せ付けないような、神々しい光を放っているようであった。先程浦島に酌をしていた女も美しかった、女の言ったように、襖から現れた女とは雲泥の差が存在した。女は、ゆっくりと、ゆっくりと、浦島の座る方へと歩を進めた。片手に持った猪口の存在も忘れ、女の容姿に釘づけになった。いつしか喉はカラカラに渇き、全身総毛立つような震え、歓喜が浦島の全身を包んでいった。


 女が浦島の眼前まで来ると、その場にゆっくりと腰をおろし、「不動様、ようこそいらっしゃいました」と、恭しく頭を下げていった。その下げた緑黒髪のなんと美しいことか。そして、なんという好い香であろう。今までの酔いも忘れて、浦島はその容姿に見とれていった。


「乙姫にござりまする」


 頭を下げたまま、女は名乗った。浦島は、なんと言葉を返せばいいのか分からず、


「う、うむ。よし、乙姫、顔を、顔を上げてくれ」


 と言うのが精一杯であった。


 顔を上げた乙姫の、なんと美しいことか。最早、浦島は亀の恩でも、魔性の者の悪戯でもよいような気がした。この時が終わらず続いてほしいと思った。


 しかし、そんな思いも長くは続かず、乙姫は浦島も、他に居並ぶ一同も唖然とすることを口にした。


「不動様、大変失礼ですが、本日お眼にかかるのは初めて。それゆえ、あなたが不動様という、確かな証を頂戴いたしとう存じまする」


 浦島は、ポカンと、魂の抜けたようにみっともなく口を開けていた。傍らに控えていた烏賊がすかさず、


「不動明王、何か、証を、お願い申し上げまする」


 と、浦島を元の世界に戻して行った。


「なに、証とな……」


「左様にございまする。不動様におかれましては、訝しいこととは存じますが、私も一国の常世を預かる女帝。確かな証を見せていただきとうございまする。それがなければ、不動様とて、この場で愛想よくもてなすことはできませぬ道理。ささ、何卒、失礼を承知で申し上げます。証をいただきとうございます」


 乙姫は微笑みを称えてそう言ったが、その実、言葉には微塵も揺らぎがなく、むしろここで浦島が証を見せることができなければ、どんな恐ろしいことでも容赦ないような様子であった。


 浦島は全身から血の気の引いていくのを感じた。


「さあ、いかがいたしました不動様。何か、貴方様だと証明できるような証を……」


ここまで大胆にもてなされておきながら、証拠がなければ、相手はどのような態度に出るだろう。もちろん、亀の勘違いであったとはいえ、どんな仕打ちを受けるか知れなかった。いつしか座は、この不穏な空気を感じ取って、視線は浦島一点に注がれている。もう浦島は、こうなればどうにでもなれという体で、ついに自ら不動明王を想像し、居直っていった。


「黙らっしゃいっ! 海中の民の長ごときが、この不動明王に証を見せろなどとは片腹痛いっ! 恥を知れぬかっ!」


 会場は一瞬で凍りついた。浦島はまさに不動明王のような怒りを称えた形相で乙姫の顔を見下ろして行った。すると、乙姫も先程の態度とは一点、全身強張った体で、震えを禁じえないような、そして、憐みを求めるような目で、浦島を見上げていった。


 そこにすかさず烏賊が入りこみ、


「どうぞ、どうぞ我らの無礼はお許し下さいませ。お詫びにこの烏賊、ここで腹を切りまする。その後は不動明王の膳に私めを乗せる、いいえ、それは不動明王のお決めになることにございまする。とにかく、何卒、我らの非をお許しくださいませ」


 そういうと烏賊は乙姫よりも先にワンワン泣きだした。


「ならぬっ! 許さぬっ! よいか、烏賊、これはこなたが一匹の命で解決できるような問題ではないのじゃ。千早振る神代から参ったこの不動明王に証を求めるとは、この竜宮とは腐りきった所じゃわい。本来ならば、この不動明王がこうした魑魅魍魎の跋扈の兆しあらんとする国を成敗するところじゃが、ここまでの持て成しを既に受けた後のことゆえ、それは致さぬ。しかし、この不動明王がしばらくこの竜宮を支配し、正しい方へと導こうと思う」


「と、申されますると、いかがいたしまするので」


「この不動明王、乙姫と婚儀を執り行う」


 乙姫は浦島の目を見つめていった。その目は、憐みを求めるものから、いつしか恥じらいを持った、少女のような目に代わっている。


(そうか、常世の女帝も、人の世の女も、同じ女じゃったわい)


 宴はそれきり終り、その夜、浦島は乙姫の体にどっぷりと精液を浴びせていった。


 それから数年が立った。浦島と乙姫の間には元気な子供らが育った。あれ以来、誰も浦島を不動明王ではないと疑う者はいなかった。いたとしても、それを言い出すと、どんな仕打ちに遭うか知らず、誰も浦島に文句を言う物はいなかった。浦島はというと、毎日飲めや歌えやの大宴会を催すありさまは、目に余る惨状であった。そうした状況を見るに見かねて、ついに、浦島を竜宮まで連れ出した亀が烏賊とこんな密談をしていった。


「わしが不動明王をお連れしてから、この竜宮も地に落ちた。それもこれも、連日にわたる酒宴で、不動明王は素面の時がないではないか。乙姫もそんな不動明王に口を出せないどころか、あれ以来、あのような御方に完全に惚れてしまわれた。それでいて、内政も手に付かないありさまじゃ。子供達も教育も受けずに、そこここで悪戯三昧。これでは、人間と大差ないではないか」


「そうじゃ。しかし、相手は不動明王じゃ。たてついたならば、その鋭い眼光だけではじけてしまうらしい。我らの如き、霊力低い物だけでは、どうすることもできぬ。といって、ただ手を拱いているだけでは、どうにもならぬが」


「そこでじゃ、わしは決心した」


「決心したとはなんじゃ」


「わしが神代におわす月読尊に、直訴するのじゃ」


「馬鹿を言え。恐れ多くも月読尊が、亀如きの言うことを容れるものか」


「いいや、しかし烏賊よ、わしはあの不動明王を連れてきた自分が憎いのじゃ。いかせてくれ。いや、無駄なことだとは分かっておる。しかし、この亀、自害すると思うて、いかせてくれ……」


 亀が出発したのは、その晩のことであった。相変わらず浦島はその晩も酒宴を開いており、その場に亀がいないことなど、気にもとめなかった。


 亀はその日ついに、海面に姿を現した。亀は月に向かって、


「おお、どうぞお声をお聞かせください。何卒、この亀の命を差し上げます。霊魂を差し上げます。ゆえに、この亀の申し上げることだけは聞きとめて下さい。月読尊。昨今、われらが竜宮に来られた不動明王は、仏でありながら、その慈悲もなく、我らを苦しめる悪行甚だ目に余りまする。どうかこの苦行から、我らを御救いなされませ。」


 すると海水は月に吸い上げられた。金色に光っていた月はいつしか赤く妖しく光り出し、その神秘的な様子を、恐怖と、恍惚とした気持ちで亀は見ていった。するといつしか、月の先から、月影であろうか、色もなく、形もなく、それでいて、何者かが、亀に、声もなく、しかしはっきりした言語で、


「生き物よ、そなたの霊魂は我の元へ馳せ参じ、我は常世の国の苦行を救おう。しかし、我自身が出向くのではない。我は形なき形。常世の国に今いるのは、人である。人を征するのは不動明王。我は不動明王を遣わし、この人の形をした悪鬼を征伐する」


 とささやかれた。亀は安心した。その安心は、亀が海上でこと切れた後に生じた感情だった。


 浦島は、その日の酒宴では、子供らも招き、乙姫まで傍らに侍らせて、酌をさせていた。子供らは宴席を縦横無尽に駆け巡り、乙姫は酒で赤くなった顔で、時たま浦島に口づけをしていった。


 そうした、毒々しい会場に、突然響いた一声


「待ちやがれっ!」


に、会場の者達は一瞬で凍りついた。


 会場には、どこから入ったのか、童子風の男が立っていた。そして、赤々と燃えるような光輪は、触れるだけで体を溶かしそうで、目は醜いほどにギロっと開き、もう片眼は、心の中までをも見透かすように、近眼を装うように静かに開かれている。右手には幾つの拳も収まりそうな巨剣。左手には、何人もの盗賊を捉えられそうな羂索を持ったその威風堂々とした出で立ちは、まさに不動明王であった。


 不動明王は浦島の前までずかずかと、大きな足音を立てながらやってきて、まずは乙姫に向き、なんのためらいもなく、右手の巨剣を振り下ろした。乙姫はギャッ! っと声を上げ、真っ二つに切り殺された。鮮血が猪口に注がれた。


「この者は分かっておった。男が不動ではないことを。それなのに、この女は男を不動に仕立て上げた。その報いじゃ」


 続いて不動明王は左手に持った羂索を子供らの方に投げつけた。羂索はまるで生き物のように、子供らを一網打尽に捉えた。


「子供らは、親の、先祖の罪を伝えなければならぬ。譬え己が身に罪がなくとも、報いなければならぬ」


 子供らはワンワンと泣き叫んだ。不動明王は、その羂索をどこかへ放り投げた。羂索は、どこかへ、吸い込まれるように、消えていったが、後に子供らの体だけは残った。


「魂は永遠の命を与えられ、先祖になれない魂は、賽ノ河原で、永遠に石を積み、鬼に蹴られては、泣きながら、石を積み上げる」


 次に不動明王は浦島に向いた。浦島は、ヒーヒー、声にならない声で喚いていた。


「人は大きな因果を背負う。さて浦島よ。うぬはここであったことを誰にも話してはならぬ。そして、その因果の形をうぬにやろう」


 そう言って、不動明王は小さな箱を浦島に差し出した。


「この箱は決して開けてはならぬ。それがうぬの因果の形じゃ。さあ、人よ、失せろっ!」


 そう不動明王がどなると、宴席にいた魚類一同が、浦島に迫ってきた。浦島は転げながら、海上へ、海上へと進んで行った。


 気がつくと、浦島は浜辺に転がっていた。しっかりと小さな箱を抱いていた。箱を抱えたまま、浦島はその浜辺を歩いた。浜辺の形は、浦島が亀を子供らから助けた当時のままであったが、周囲の状況はすっかりと変わってしまっている。


(いったい、どれだけの年月がながれたんだ……)


 そんな中、漁師が海に向かって船をこぎ出しているのを見た。


「今日は葬式が出たから大漁になりしょうじゃの……」


 そんな話が聞こえた。漁師たちは船を沖の方へ向けて漕ぎだした。その船が見えなくなるまで、浦島はじっと船を見守っていた。しばらくして、向こうから葬列が歩み寄ってきた。


「もし、これはだれの葬列じゃな」


 村人の話によると、それは、浦島が亀を助けた日に生まれた子供が、天寿を全うした葬列だった。


 浦島はその葬列が見えなくなるまで眺めていて、不動明王にわたされた小さな箱をかけた。中からは、神秘的な白い煙が立ち上った。浦島は鶴になっていた。


(これは、わしにあと千年も生きろと言うのか……妻子を取られ、友もなく。なるほど、これは因果じゃ……)

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異本浦島氏 おとさらおろち @orochi5656

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