第3話 定められた必然の運命

 刃は夜に一人で出歩いていた。

 制服姿のまま、補導されたとしても自分には家族がいない。

 一人暮らしをしているのだから、当然だ。

 月光に照らされながらも暗く沈む街は今日も退廃的に映る。

 自分の目には何もかもが色褪いろあせて見える。

 己という存在すらも夜の星よりも小さく見える。

 ああ、なんでこんなくだらない生き方をしてしまっているのだろうか。


「……今日も、月が綺麗だな」


 刃は小さく呟いた。

 いつも家の窓辺から見る夜月も悪くないが、こうして風を感じながら見上げる月夜も悪くない。鳥の囀り声を聞きながら夜道を歩くこの時間が好きだ。

 誰かが近くにいることが多い昼より夜がいい。性格の悪い奴らの

 つまらない喧嘩に明け暮れる日々よりも、こんな静寂でできた空気の中を風のようにゆったりとした足取りで歩くのは、俺の趣味しゅみだ。

 ……いつか、アイツを見つけられたらと祈りながら刃は歩道を軽く歩く。


「君、学生だよね。こんな夜更けにどうしたの?」


 水道水みたいににごってなくて、耳馴染みみなじみの悪くない声を耳にかすめた。他の誰かに声をかけているんだろうと踏み、俺は後ろを振り返らずに前へと進む。


「ねぇ、聞いてる? 君だよ、綺麗な目をした学生さん」


 透明感のある、慎ましやかな女の子らしい少女の声に足を止める。


『刃の目は、お父さん譲りで綺麗だわ』


 ……母さんがそう言ってくれていたことがあったのを何で今思い出すんだ。

 刃は後ろに振り返ると銀髪を三つ編みをした少女が目の前にいた。

 

「……やっとこっち向いてくれたね」


 令嬢と呼ばれるタイプの金持ちの娘が来てそうな格好をしていた。

 白いシャツと腰部がコルセット状になっているハイウエストの暗色のスカート。

 スカートが落ちないようにか、シンプルなサスペンダーもつけている。

 少し洒落た短い靴下に黒のストラップシューズと、全体的にモノトーンなチョイスの格好だ。

 ただ、唯一違うのは彼女の目。

 彼女の目は綺麗な青緑色の瞳で、嫌味がなく温和な彼女の性格が表れていた。

 青みを帯びた月明かりに照らされて、彼女の瞳は青よりに見える。

 綺麗だと、感じた。

 初めてだ。人のことを、こんなにも美しいと感じたのは。


「……君、」

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 おどろおどろしい気持ち悪い声が聞こえる。

 覚えがある。覚えが、ある。

 俺は見知らぬ女の前に出る。


「逃げろ!! 白髪女しらがおんな!!」

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誓刃 絵之色 @Spellingofcolor

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