決意

 某日某所、雨が降る路地裏。この前の阿呆のお仲間が復讐に来たらしい。しかも、ママさんの遺志を継いで、あの駆け込み寺のバーを続けることを決めた俺の「恩人」であり、希望であるあかるさんをターゲットにしていたんだそうだ。

「縄張りまでのこのこ付いてきやがって、馬鹿かお前」

「う、うるさい!黙れ!」

 ここは人の目も監視カメラもない袋小路。このエリアは狐狼会のシマだって教えてもらわなかったのか。うちの系列の女性向けキャバクラに、付き合いで仕方なく出迎えてやったらつけ上がりやがって。強めに警告したら親まで出てきて脅してきたことがあったが、後でご両親に丁寧にご挨拶に伺ったら、大人しく出入り禁止の案を飲んでもらったんだったな。

「女だから、か弱いくてひっかけやすいとでも思ったか」

 弱肉強食という言葉がある。意味は誰もが知っているだろう。それは大自然の中でも、都市の中であったとしても変わらない真理であり、絶対的な規範であると思っている。

 だからこそあくまでも一匹の狼として、他者の思いを踏み躙り、破壊するヒトの皮を被った獣を喰らってやるんだ。力を持てない、あかるさんのような良き人々を守る為に。

 「弱者の側に回るのがどんなに恐ろしいか、教えてやるよ⋯⋯」

 狼になるまでもない。思っていたよりことは早く済んだ。どこで手に入れたんだか分からんがドスを持っていたが、振って来たのをかわしたら手からすっぽ抜けて飛んでいった。スウェーから右フックをガラ空きの顔面に叩き込んだ。会の連中が、物言わぬ肉塊になったを冷凍車に運ぶ。

 自分の、血まみれになった手を見る。俺はただのエゴイストなんだろうなと思う。雨粒が叩きつけてきているこの瞬間も、自分の心を占めているのはあかるさんのことだけだ。どんな手を使ってでも彼女を守りたいと思っている。あかるさんがいない世界なんて耐えられない。もう彼女なしには生きることができないんだ。幼い頃に一目見たときからあかるさんは、希望の燈であり、進むべき道のりを示してくれる指標であり、自分に再び命を与えてくれたヒーローだ。


「貴女を、このクソッタレな世界に奪わせやしません。この命に代えてでも、守ってみせますから⋯⋯」


 人が蠢くコンクリートジャングル、その曇天に、一匹の狼の咆哮が轟いた。

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ウルフギャングTOKYOストリート 鬱崎ヱメル @emeru442

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