第七章

一度近くの湖に降りて休憩をとる。


ブルーノの後に続きハクも地上に舞い降り、急ぎサラの所に駆けつけ、降りるのを手伝う。

「大丈夫ですよ。1人でも降りられます。」


「分かっているが心配なんだ。」

カイルはそう言ってサラを抱き上げ下ろてくれる。

「体が冷えたな。何か暖かい物でも飲むか?」


「風が冷たくなってきましたね。」

抱き上げられたままなかなか下ろしてもらえず、首を傾げる。


「カイル様?」

サラを抱き抱えたままカイルは近くの岩に座る。

しばらくそのまま何も話さないカイルにサラはそっと腕を回して抱き締める。


「俺がショーンみたいに泣くと思ったのか?」

カイルが笑いながらサラに言う。

「生まれ育った場所を離れるのはカイル様でも、寂しいのかと思って。」

顔を上げてカイルを見上げる。

 

「別に寂しいとか、ショーンみたいに感情的になってる訳じゃない。ただ、サラに触れていたいだけだ。」


カイルの膝の上に座っている状態が、何とも言えず恥ずかしいが、しばらくこのままでいようとサラは思う。


「俺はずっと親もいなければ兄弟もいない、帰る場所は何処にも無いと思って生きて来た。自分の価値は、戦いの戦場の場だけにあるとまで思っていたから、それでよかったんだが。

平和になりつつある世の中に、俺の居場所はもはや無いとまで。そんな時にサラに会って、サラの側に居たいと思った。」

サラはこくんと頷く。


「出来ればこの先ずっと、サラの側に居たい。俺の帰る場所はサラの隣りだ。そう思って良いだろうか?」


「もちろんです。カイル様がいない人生なんて考えられないですから。」


「ありがとう。俺に会いに来てくれて。」

カイルはぎゅっとサラを抱きしめて、幸せを噛み締める。


「私こそ、ありがとうございます。

私の側にいる事を決めて下さって。

ショーン団長には申し訳なく思ってしまいますが…。」


「あいつは大袈裟なんだよ、大丈夫だ。

今頃ケロッと仕事してるから。」

笑いながら、サラの頬に手を当てて愛おしそうに撫でる。

「今はただ、サラを堪能したい。」


そう言ってカイルはサラに長い長いキスをした…。


「サラ…邸宅に今夜帰ったら、抱きたい。」

えっ……、サラの思考回路が止まってしまう。

固まったままのサラを見て、


「もう一度行った方がいいか?

サラを…」

「わ、分かりました。」

急いでカイルの口を両手で塞ぐ。サラはキョロキョロ周りを伺い他人の目を気にする。


「無理強いするつもりは無いが、無害な男だと思われても困る。俺を兄ぐらいに思っていないか?」

サラはぶんぶんと首を横に振る。


「突然の事で心の準備が…。」


「じゃあ、帰るまでに心の準備とやらをしてくれ。」

サラは困った顔でカイルを見上げる。


「そんな顔しても可愛いだけなんだが。」


「カイル様は時々意地悪です…。」

カイルは笑いながらサラの額にキスをして、


「じゃあ。弱ってる俺を癒やしてくれるか?」


「…全然、弱っているようには思えません…。」

ハハッと笑ってサラを抱きしめる。


「ブルーノの荷物をハクに移すから、ブルーノに一緒に乗ってもいいか?」


どうしても一緒に乗りたいらしいカイルを可愛い人だなぁと思って、サラもくすくす笑う。


二人でブルーノに乗って邸宅に到着する。


カイルは飛んでる間、ずっと抱きしめてくれていたから、寒い外気から守られとても暖かかった。


ただ、サラの心臓だけがはドキドキと鳴り続け、なかなかの試練となった。


「お帰りなさいませ。」

庭先に降り立つと、執事の男がやって来て荷物を運び入れてくれる。


「長旅お疲れ様でした。

温かいお茶でもいかがですか?それともお夕飯に致しますか?」


「そうだな。腹が減ったから、夕食にするか?」


「そうですね。」

サラが頷く。

「ところで、マリーとカンナは戻ったか?」


「今夜は暗くなったので宿に泊まると先程連絡がありましたありました。」


「そうか、分かった。」


「夕飯が終わったら、後は自分達でやるから帰っていいぞ。」

こっそり、執事にそう告げる。


「承知致しました。」


サラはショーンがカイルに渡した鷲を抱いて邸宅に入る。

「サラが面倒見てくれるのか?」


「いいんですか?」


「ああ、押し付けられただけでいい迷惑だ、サラが可愛がってくれたらそれでいい。」


「嬉しいです。私ペットを飼うの夢だったんです。」


「鷹はペットと呼べるか?」


「はい。可愛いですよ。」

そうかと笑いながら、サラの頭をポンポンして鷹の入った鳥籠をサラから受け取り、玄関に置くよう執事に告げる。


「とりあえず夕飯にしよう。」

カイルは、サラの手をさりげなく握り歩き出す。

「…はい。」


夕飯は温かい野菜のスープや柔らかい子羊のステーキなど、充分に冷えた体を温め、美味しい物を食べ、ホッと気持ちを穏やかにしてくれた。


デザートにはプリングやイチゴのケーキ、アップパイなどいろいろな種類が並べられ、全ての種類が食べられないくらいだった。

 

「こんなにいっぱいのデザートは初めてです。」

サラは感動し、目をキラキラさせてちょっとずつに切り分けて貰い、沢山の種類のデザートを堪能した。


「頑張って全種類食べなくても、明日食べればいいから。」

カイルはそんなサラを可笑しそうに笑って見つめる。


「カボチャのパイとチーズケーキは明日の朝に食べたいので、取っておいて下さいね。」

サラは、給仕をしてくれる使用人に一生懸命つげていた。


「全部サラ様とご主人様のものですから、心配しなくても取っておきますよ。このケーキは全部ご主人様のご指示なんです。」


「そうなんですか?」


「サラ様が疲れて帰るだろうからと、甘い物を沢山用意しておいて欲しいと連絡があったんですよ。」


「そうなんですか?わざわざありがとうございます。」


「みなまで言うな……ただサラに喜んで欲しかっただけだ。」


どこまでも優しくて気遣ってくれるカイルに感動してしまう。


夕飯を終えて、部屋に戻って1人ホッと一息を付く。

「お風呂が沸いておりますので、お着替えとガウンはこちらにあります。」

使用人が至れり尽くせり世話を焼いてくれる。


「それでは、これで今宵は失礼致します。」と、全ての寝支度を終えた使用人達は部屋を後にする。


急に、広い部屋に1人にされたサラは少し心細くなる。


今日は朝からカイルとずっと一緒に居たせいか、カイルに会いたくて仕方がない。


でも、心の準備は出来ていない……。


いつかはきっと、そう言う大人の関係になるんだろうと、頭の何処で思ってはいたけど、こんなに早く来るとは正直思ってもいなかった。


とりあえず、お風呂入って落ち着こうと思う。


カイルはと言うと、


風呂に入って気持ちを落ち着ける。


大切なのはサラの心だ。

サラの気持ちが追いつくまで待つべきだと思うのに、愛おしさが溢れてこれ以上、自分を制御出来そうも無いと思う気持ちとで揺れていた。


とりあえず、今宵は眠れそうも無い…。


風呂から上がり頭を拭きながら部屋に戻ると、


トントントントン。


思いがけずドアのノックが響く。

今夜はもう使用人は帰ったはずだ。


サラが自ら来るなんて思いもしなかった。


ドアを開けると、ガウンを着たサラがいた。


動揺したカイルは


「どうした?心の準備とやらが出来たのか?」

つい意地悪な聞き方をしてしまう。


サラは少し困った顔をして

「…あの…ちょっとだけ寂しくなったと言うか…。」


「悪かった…意地悪を言った。」

カイルはそう言ってサラを部屋に入れ、抱き寄せる。


「今夜は眠くなるまで話しでもしよう。」

安心させるようにそう言って、サラを解放してソファに座らせる。


「紅茶でいいか?」

「はい…。」

あんな事を言ったから怖がらせたかと反省して、出来る限り優しくしようと心がける。


「ありがとうございます…。」


「髪がぬれている、ちゃんと乾かした方がいい。」

サラの髪をタオルで優しく拭く。

「だ、大丈夫です。カイル様の方が濡れてる気がします。」


「俺は直ぐ乾くから平気だ。」

いつも自分の事は後回しで、サラは申し訳ない気分になる。


サラはふっと立ち上がり、カイルに抱き付く。

「どうした?」

カイルも髪を拭く手を止めて、優しく抱き締め返す。


「あの…

心の、準備が、出来ました…。」

そう言うサラは少し振るえている。


「無理強いはしなくない…。」

カイルはそう言いながらも制御できず、

唇に何度も角度を変えてキスを落とす。


「口開けて。」


言われるがままに軽く口を開けるとカイルの舌が強引に口内に入ってきて舌を絡まれる。


「……あっ……ん……。」

まだ、慣れないサラは深いキスに息が乱れて立っていられなくなる。


抱き上げられて、気づくとベッドに寝かされいた。

カイルから降り注ぐキスに溺れて何も考えられなくなる。お腹の奥がぎゅっとして体が熱くなってくる。


耳たぶを喰まれて首筋にキスが降りてきた。


「脱がしてもいいか?」

ガウンの合わせを解かれ、ネグリジェのボタンが外される。

恥ずかしいと思う気持ちと、もっと触れて欲しいと思う気持ちとで心がドキドキと踊る。


素肌に触れられビックっと体が揺れる。

サラは思わず恥ずかしくて目をぎゅっと閉じてしまう。

「綺麗だ…」


「出来るだけ痛くさせたくないから力を抜いて俺に預けて。」


痛いのか気持ちいいのか分からない、ただ、優しく触れるカイルの熱い手に翻弄され、いつの間にが意識を離してしまっていた。



「あれ、今何時?」

朝、眩しくて目が覚める。

ここは何処だったか…。


ああ、お城からカイル様の邸宅に帰って来たんだった…


昨日のアップルパイ美味しかったなぁ……。


お布団あったかい…起きたくないなぁ…


うん?あれ⁉︎



手に触れた温かい感触に違和感を覚えてサラが薄く目を開ける。


カイルと目が合い、びっくりして飛び退ける!


ベッドから落ちそうになるサラを瞬時に抱き止めカイルは笑う。


「カ、カイル様⁉︎」


「おはよう。大丈夫か?」

頭がボーっとして状況を理解出来ずサラは固まる。


昨日…寂しくなって…

カイル様の部屋に来て……それから……


状況が段々思い出される。

自分が無にも着てない事に気付く。

慌てて毛布をまとってカイルから逃げる。


「オ、オハヨゴザイマス。」


顔を隠してうずくまる。


恥ずかし過ぎる…。


「目が覚めた?」

カイルが笑ってサラの頭をポンポンしてからベッドから起き上がる。


「楽しい夢でも見てた?」

寝顔を見られてた⁉︎

「い、いつから見てたんですか?」


「う〜ん。1時間くらいかな…。」


「な、なんで起こしてくれなかったんですか⁉︎」


「幸せそうに寝てたから、起こし難くて、まだ8時だから大丈夫だよ?」


「だ、大丈夫じゃないです。恥ずかし過ぎます…」


「可愛かったよ。」

そう言って笑ったカイルはズボンを履いて、シャツを羽織りベッドから出て行く。

水差しからコップに一杯水を入れてサラに渡す。

「喉乾いてるだろ。

昨日は無理させたから、身体大丈夫か?」


昨夜の事情が思い出され、顔がボッと赤くなる。


サラはお布団に顔を隠す。


「シャワー浴びるだろ?」


こくんと頷き、立とうとするのに足に力が入らない。

そんなサラを軽々抱き上げてカイルは浴室に連れて行く。

「手伝うか?」


「だ、だ、大丈夫です!!」

何とかカイルを浴室から追い出し1人で赤面しながらシャワーを浴びる。


カイルは心配してそれでも、ドアの前でサラの様子を伺う。


「あの……着替えがありませんでした…。」


「ああ、部屋から取ってくるから待ってろ。」

ああ…

下着とか見られてしまう、とサラは落胆してシャワーを浴びながら座り込む。


着替えをなんとか1人で終えてドアを開けるとカイルがすかさず抱き上げ、ソファに座らせてくれる。


「髪が濡れている。」

カイルは当たり前のようにサラの髪をタオルで拭いて乾かしてくれる。


「ボルジーニに戻るのは明日にするか?

荷物も詰めないといけないしサラも動けそうも無いし。」


「大丈夫です。」

何故か拗ねたような言い方でサラは返事をする。


「…怒ってるのか?

俺が無理強いさせたんだったら謝る。」


カイルは率直にそう言ってサラの顔色を伺う。


やはり、早まったかと反省する。


サラは生粋の箱入り娘だった。

きっと、男女の行為についてもあまり知らないまま育ったのだと、今頃ながら思う。


嫌われたか……。


と、カイルはため息を付く。


もっと近付くつもりが、2歩も3歩も後退してしまった気がする。


「嫌いになったか?」

カイルはサラの髪を拭きながらつぶやく…。


「大好きです!!」

怒りながらもサラはそう言う。


カイルは安堵し、しばらく距離を見誤らないように気を付けなくてはと、自分に言い聞かせた。

               

                fin.

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男装の令嬢は竜騎士団長に竜ごと溺愛される @yumemiruringo

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