5
研究所のかつてない損失を出した襲撃に、職員達は被害総額を計算する作業に追われている。
アンドロイドはほぼ全壊。しかし、脳機能を入れ替えれば再復帰は可能な個体が多かった。躯体を損傷したわけではなく、あくまで行動決定機能だけがイカれたようである。
「破損原因は、視覚情報のオーバーヒートによるもの」
アンドロイドの検死結果は総じてこの通りだ。
おそらく、Dの仕業なのだが——アンドロイドたちが彼の目を見て、その情報を処理しきれず自壊したのだろうか。
確かに、彼の目は特別なものだったが、その原動力は何から来るのだろうか。
研究所のカフェスペースは被害を免れたらしく、職員がひっきりなしにやってくる。
僕もそのうちの1人であり、部屋の端で報告書作成作業を行っている。傍にはアイスコーヒーがあり、入っていた氷はすっかり溶けてしまっていた。窓から差す陽の光は温かく、頭や腕に巻きつけた包帯からじんわりと熱を感じる。怪我が溶けて治れば良いのに、と思った。
落下自体の損傷が、そもそも軽微である。
簡単に考えれば「誰かが僕の落下を軽減させた」わけで。
僕は作業の手を一度止める。新しい飲み物を注文するために、席を立った。
現場から見つかった遺体は2つ。ドクター・リィとE・ローレンスのものだ。どちらも焼死体となって発見されたが、僅かに残った毛髪や皮膚片とで個人は特定された。
彼女が男を研究室で隔離——監禁していた件はちょっとした騒ぎになった。僕には何も知らされていなかったのは紛れもない事実であるので、こちらに非は無いと公的にも判断された。
彼らは一緒の墓に入ることになった。僕はそれを提案したし、否定されることも無かった。何より、彼女はそれを望んでいただろう。
彼に関しては、どうだっただろうか。
それを考察する材料は殆ど無い。
カウンターでアイスコーヒーが出された。僕の包帯姿を見て、店員は席まで運ぶと言ってくれた。素直に厚意に甘えて、僕は老人のようにゆったりした足取りで席に戻る。
ローレンスの愛は、万物に共通する言語だという。
その目の魅了性を見るに、人間のそれとは比べるべくもないが——。
「あえて言うなら、それは救いだったのでは」
報告書に書こうとして、その一文を消した。
DとEの葬送 河嶋和真 @washa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます