第5話 美少女


『わかりました。投降します。コクピット、開きます』


 パイロットはお腹部分に搭乗している。

 背中には電池パックがあるので前面が開くようになっていた。

 白い機体のアダムの前が上下に分かれて開放される。


 中からは薄くて白い宇宙服のようなパイロットスーツに身を包んだ女の子が出てきた。

 背が小さいが胸は出ている。

 黒髪ロングの美少女だった。


「お、おい。若菜わかな黒崎くろさき若菜じゃ?」

「お兄ちゃん……」

「本当にワカナなのか!」


 彼女は妹の親友だった。ひとつ下の十五歳のはずだ。

 小さいころからうちに入り浸っていたため、俺にとってももう一人の妹みたいな存在だ。

 本物の妹と異なり、一番近い異性でもある。


 つまり、初恋というやつだ。向こうも少なからず意識していたはずだ。


「お兄ちゃんが悪いんだよ。敵のパイロットになんかなったから」

「いや、まあスカウトされて断れなかった」

「私に内緒で家から出てった」

「極秘だったかな」

「一緒にゲームだってして、私一生懸命練習もしたのに」

「悪いとは思ってる」


「ところで『閃光の美少女』って」

「もちろん、私の事……わるい?」

「いや、美少女なのは知ってる」


 ワカナが下を向いて頬を赤くする。


「でも今は敵だ。捕虜として連れていく」

「わわ、私。亡命する。お兄ちゃんと一緒にいたい」

「そうか、じゃあその機体は鹵獲するからな」

「わかった」


 俺たちは第一陣で名古屋入りをしたので、後を主力の機動戦闘車に任せる予定になっている。


「では撤退だ。話は後で聞く」

「うん……」

「ミカ先輩もいいですか?」

「あえ、うん、了解」


 名古屋駅周辺での戦闘はこれで終わりのはずだ。

 タイヤを使って三機が一列になって道路を走る。

 早朝から避難命令が出ているのだろう、道には人がいない。


 名古屋から封鎖されている高速のICを突破して、名神高速を通って関ケ原の国境線を超えた。


 その先にはメタルパペットの地上部隊が展開して待っていた。

 トレーラーに俺たちの機体を載せて、本日の任務は終わりだ。


「隊長機は……やられたわ」

「……ごめんなさい」


 ワカナが撃破したのだろう。

 俺たちも二機撃破しているので、お互い様ではある。

 人員輸送車の荷台で、ワカナがシュンとなっていた。

 他の隊員は敵の機体を興味深そうに見ていた。


「わたし、これからどうなるんだろう……」

「尋問だよ。敵だからね」

「優しくしてね」

「ああ」


 ワカナは全身取り調べを受けることになるだろう。

 恥ずかしい思いもするかもしれない。

 しかし敵パイロットだったのだから、それくらいの覚悟はあるはずだ。


「お兄ちゃんとずっと一緒にいたい」

「まあ、検討しておく」

「うん」


 敵のエースパイロット、その正体がまさか妹の親友だとはな。

 ワカナは手錠を掛けられて隅っこで大人しくしていた。


 そのまま高速を走行して、神戸に戻ってきた。


「おい、敵パイロット、お前はこっちだ」

「あ、はい。すみません、ちょっとだけ」

「ああ、はやくするんだ」

「はい」


 ワカナが俺に近づいてくる。


 チュ。


 ほんの触れるだけの優しいキス。

 俺のはじめてのキスを奪っていき、目に涙を溜めながら連行されていく。


「お兄ちゃん、ばいばい」


 ワカナも俺の事、好きだったんだな。

 どんな思いをして敵のパイロットになったのか。

 ワカナは新日本の住民だから西日本に移籍した俺を追いかけられなかったのだろう。

 パイロットになれさえすれば、敵同士でも会えると思ったのかもしれない。


「ワカナ……」


 戦争はまだ始まったばかりだ。

 新兵器メタルドール。

 俺たちの行動次第でこの国がどのような道を進むのか決まってくる。


 ワカナは俺たちと一緒に戦うつもりのようだが、さてどうなるか。

 上層部の考えることは分からない。


 不安が押し寄せる中、ワカナの存在はもしかしたらわずかな希望なのかもしれないと思った。


(了)


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カクヨムWeb小説短編賞2023参加作品です。

1万文字制限があるので、これで終わります。

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メタルドール 滝川 海老郎 @syuribox

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