第4話 メタルドール

 その機体は白いメタルドールだった。


 マスコミにリークされた後も、その姿は秘密に包まれていて、色々な噂はあった。

 赤い三倍速いのが隊長機だとか、純白のナイトであるとか、白雪姫であるとか。


 もしエースパイロットが『閃光の美少女』なのであれば、白雪姫だろうか。


 こちらと同じようにドワーフ体型の人形兵器のようだ。

 足の裏にはもちろんタイヤも装備されていて高速移動が可能だ。

 歩いたり、ジャンプしたり、障害物を避けたりできる。

 もちろん、シャープなイケメン顔がついているが、サングラスのようなメインカメラの形状はこちらとは異なる。


 シルフィードは横長バー型の黒いサングラスをしている。

 もちろんこれは複眼の目が中に内蔵されていて、レールの上を左右に動く。

 カメラはあちこちにあり合成した映像がパイロットに表示されるので、メインカメラの性能だけでどうということはない。


「白雪姫か……」

「ミカ先輩も敵になんて呼ばれてるんでしょうね」

「さあね、興味もないわ」

「うそん」


 軽口を叩くのは浮かれているからではない。

 全く逆だ。同性能と言われる敵を前に「怖い」と思ってしまった。


「とやあああ」


 バアアアアン。


 次に交差点を横切ったところをレールガンで射撃してみるが、予想通り素早く動いていて当たらない。


 さて次はどちらから出てくるか。

 そもそも全部で何機いるかも不明だ。

 地上ではビルが邪魔でレーダーにも正確に映らない。

 さらにレーダーもジャミングがやろうと思えばできるのだ。不要と判断されてるからされてないだけで。


 交差点のビルに隠れるように立っていたところ、目の前に敵が現れた。


 ガンッ。


 右腕で殴られる。

 まさかロボだからといって殴られるとは思わなかった。


「うおううう」

「ちょっ、レイ君」

「おりゃあああ」


 左手のシールドからヒートナイフを伸ばし、これに応戦するが、軽く避けられてしまう。


「走って!!」


 ミカ先輩の声に慌ててレバーを倒し走行モードで抜け出す。


 バアアアアン。

 ドオオオオオン。


 俺の機体が動いた隙にミカ先輩のシルフィードのレールガンが炸裂する。

 それは敵のアダムの腹に見事に命中し、火花を撒き散らしながらロボの上半身が吹き飛んでいった。


「ちょっ、ミカ先輩」

「はい、ワンキル」

「サンキューは言いませんよ」

「分かってるわ」


 俺が反応が遅れていたら、爆散していたのは俺の機体だったかもしれない。


「うおわあああ、く……」

「隊長っ」

「え、隊長?」


 ドオオオオオンと爆発音がする。

 呼びかけても隊長からの反応はない。

 代わりにビルの向こう側から黒煙が昇っているのが見えた。


「やられたか」

「そんなっ」


 ミカ先輩の叫び声が聞こえる。

 ミカ先輩といっともまだまだ女子高生だったのだ。隊長に何かと甘えていたのを知っている。彼女の支えだったのだろう。


 ビルを挟んで相手を探す。

 今度はこちらがやられる前にヤる。

 それしかない。


 敵のアダムはたまに交差点を通過するのが見えるが、撹乱しようとしているのか、右へ左へとすいすい移動していく。

 ただ距離を縮めているのは確かだった。


 地面を見るとクマのぬいぐるみが一つ、ポツンと落ちている。

 誰か子連れで避難したのだろうか。それも必死に逃げ出したと思われる。ぬいぐるみを拾うこともしなかったと。


 西日本と新日本に別れているとはいえ、どちらも同じ日本語を話し会話もできる。

 日本人に違いなかった。


 それが今では二つに別れて戦争しているとは、情けない限りだ。

 まだ言葉を尽くしていないのではないか。

 会話による解決は本当にできないのか。


 あのアダムに乗っているという美少女とだって俺たちは話ができるのではないか。


 今更かもしれない。

 でも、戦争はどうしたら終わるのか。

 このままズルズルと戦闘行為をして、都市を破壊することになっても、両国はいいと思っているのか。


 敵機アダムが交差点でこちらにバズーカを向けてくる。

 しかし遅い。俺はそれを先に捕捉し、レールガンを発射する。


 ズドオオオン。


 アダムに命中し炎上し、そのまま動かなくなった。

 バズーカーを装備していた右肩から先は、吹き飛んでなくなっている。

 下半身だけそのまま無事でなんだか変なオブジェのようだ。


「ツーキル」

「やったわね」


 ミカさんがキャッキャと喜んでくれる。

 先ほど捕捉した数からすると、残りは一機のはずだ。


「ミカ先輩、索敵」

「えぇ、さてどちらが先に倒せるかしら」


 周りを注意深く見る。

 ビル街でどちらから仕掛けてくるか分からない。


「ミカ先輩、後ろ!」

「はあっ」


 来るだろうと思っていた俺の先ではなく、逆側からだった。

 ミカ先輩はとっさに移動して、アダムのヒートナイフから距離を取った。


 すると敵のアダムはターゲットを変更、今度は俺の機体に突っ込んできた。

 俺もヒートナイフを左手で持ち、これに応戦する。


 ガキンッ。


 灼熱のナイフ同士がぶつかりつばぜり合いになった。

 このヒートナイフの技術は新日本のもので、それをそのまま西日本の機体でも採用していた。

 機能的には同性能とみていい。


「うぉおおおお」


 ギイギイイイイ。


 リニアモーターがうなりを上げる。

 回り込んだミカ機が敵機の背後方向からレールガンの照準を合わせる。


「チェックメイト」


『あーあー。アダムちゃん。チェックメイトよ、動くと撃つわ』


 ミカ先輩の声が拡声器と緊急チャンネルの無線から同時に聞こえた。


 俺たちはナイフを離し、お互いそのまま制止する。


『大人しく投降しなさい』


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