第3話 戦闘

 コックピットは赤い非常灯になっていて、モニターには外の様子が写されている。


「名古屋上空に入ります」

「ふぅ」


 ここまで無事にこれた。問題はここからだ。


「索敵、機動戦闘車の展開を確認」


 緊張が走る。さすがに撃墜されたら終わりだ。


「後部ハッチ、オープン」

「一番機、降下」

「二番機、降下」

「三番機、降下しますっ」


 俺も電子ロックを解除して、レールを滑って空へ放り出される。

 すぐさまパラシュートを展開、さらに手足を伸ばす。

 格納状態では折りたたまれている。


 左腕には市街用簡易シールド。

 右腕には試作型レールガンが装備されていた。

 これが俺たちの虎の子だ。


 戦車の装甲も貫く一撃必殺兵器、レールガン。

 出力が高く、電池を食う。

 正直パフォーマンスはよくない。

 連射は難しいが、節約するとその間にチャージできればまた打てる。

 弾は軽量なプラスチック弾である。

 これを電磁波で超高速に射出すると高熱の塊が飛んでいく仕組みだ。


 名古屋駅前のビルを右手に道路上空へと進路をとる。


「下に機動戦闘車、砲塔が回転して、こっちへ」

「攻撃、許可。破壊しろ」

「ラジャー」


 パラシュートでぶら下がったまま、下の機動戦闘車を照準に入れる。


 バアアアアアン。


 レールガンが一閃、火を噴いて機動戦闘車に命中する。

 機動戦闘車は内部から爆発、大きな穴が開いた。


「撃破、確認」

「ナイス」

「よくやったわ」


 隊長からもミカ先輩からも激励をいただく。

 逆噴射をして壊れた機動戦闘車の近くに着陸する。


 プシュー。


 ギュン、ギュン、ギュン。


 足を動かすとリニアモーターが音を立てる。

 少し先のほうにミカ先輩の二番機が十字路の真ん中で警戒をしていた。

 すでに車の避難は終わっているようで、乗り捨てられたもの以外は道路にはいないようだ。

 信号機だけが誰もいない名古屋駅周辺にちかちかと光を放っていた。


「レイ君、後ろ!」


 ミカ先輩が俺をかすめるようにレールガンを放つ。


「あっぶね」


 ドカーンと大きな音がして、俺の後方で別の機動戦闘車が炎に包まれた。


「助かりました、ミカ先輩」

「いいのよ、あとでアイスおごって」

「いいですよ」


「上、Su-57、三機接近」

「げ、戦闘機ですか?」

「偵察なのかしら、でも爆装してたら怖いわね」


 Su-57はロシア製戦闘機だ。新日本では多く運用されていた。

 ステルス機なので爆弾を吊り下げたりはしないものの、空対地ミサイルを装備できる。


「レールガンは射程ギリギリだな」


 隊長がぼそっという。


「全機、配置に付け、全部落とす」

「「了解」」


 ビルの影から道路上に出て、空を見上げる。

 Su-57が隊列を組んで飛んでいる。


「発射」


 バアアアン。


 レールガンから火の玉がとんでいき発射音が鳴り響く。

 三発のうち二発がそれぞれ命中、一機を取り逃す。


「やれるか? レイ」

「やります」


 俺が再び照準をセットしトリガーを引く。

 レールガンが再び火を噴き、上空の戦闘機を撃墜した。


「目標、撃墜」

「了解」


 今頃、俺たちの進軍に合わせてこちらの機動戦闘車が関ケ原を超えて、名古屋方面に進出しているはずだ。

 心臓はさっきからバクバクと激しく音がしていた。

 それを気にする暇もなかったのだ。


「敵、機動戦闘車、をレーダー範囲に確認。こちらへ向かっています。数は三」

「「了解」」


 ミカ先輩のアナウンスで気を引き締める。

 元女子高生は頭脳明晰の美少女だがいささか血の気が多い。

 隊員には人気だが、気後れしそうだ。


 ビルを盾にしつつ、斜め上から機動戦闘車を狙うとあっという間に倒すことができた。

 人型兵器は三次元的に動くことができる。

 低い建物の上などに乗ることができるのだ。

 機動戦闘車は敵ではなかった。


「チャージまで二十秒」


 しかしレールガンの再チャージまでには時間が少し掛かる。

 何発も連発できないのが欠点なのだ。


 次の敵がすぐに出てこないことを祈りつつ、作戦を遂行するしかない。

 さて次は鬼が出るか蛇が出るか。


 その時をじっと待った。


「レイ君、どうやら小牧方面に敵輸送機、本命のアダムスが来たみたい」

「ま、マジですか、東京からこの短時間でか……」

「AIの判定では、他にこのルートは有り得ないみたい」

「左様でございますか、くそ」


 どうやら向こうも虎の子だろうに、メタルドールが来るらしい。

 高速移動も車並みだから、そう時間はかかるまい。


 左右のレバーを軽く握り、視線をあちこち見て確認する。

 さて、このままツッコんでくるのか、まさかな。


 元は同じ技術だ。こちらのほうがアメリカの最新技術によるフィードバックもあって、レールガンなど武装はいいが、練度は向こうのほうが優位とされている。

 ぶっちゃけ、勝てる自信はない。

 ゲームではさんざん勝ってきたが、次も勝てるとは限らない。


 相手も先行量産機とはいえ、スーパーパイロットがいるという噂は有名だった。

 『閃光の美少女』とかいう嘘だか本当だか分からない二つ名で呼ばれているとか。



「レイ君、来たわ」

「了解」


 シミュレーションではメタルドール同士の戦いももちろん日常だ。

 しかし、これは史上初めてのロボット戦なのだ。

 緊張から額に汗が流れていく。


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