第2話 上空

 俺たちがいるのは神戸総合基地だ。

 神戸ポートと神戸空港は丸ごと軍事基地となっている。

 空港の一部を除き民間人の立ち入りはできない。

 ここには西日本の防衛軍のメタルパペット基地があるのだ。

 軍隊について西日本は防衛軍、新日本は新日本軍と呼んでいる。

 まあ名前ひとつにも色々な歴史があるのだ。面倒なことに。

 自衛隊が自衛軍になるときも、大変揉めた。


「メタルパペット中隊にはC-16輸送機にて、低空から侵入、名古屋駅周辺へと降下してもらう」

「(まじか)」


 確かにゲームやシミュレーションでも似たような作戦は実施してきた。

 ゲームの操作画面はとてもリアルで、VR装置と専用コントローラーセットを使っていたので実機とほぼ同じだ。

 なぜ人間なんかが乗っているかというと、GPSジャマーや電磁波兵器があり、妨害電も普通に存在するため、無人機の信頼性は低い。

 相手国が弱い場合には、偵察などに便利だが、技術力が拮抗している近代国家同士となるとそう簡単に行かないのが実情だった。

 けっきょく最終的には人間が操縦するしかないのだ。


「まったく、これだから福岡の連中は」

「なにか不満かね」

「こっちが名古屋なんて攻撃したら向こうは京都か大阪でしょうに」

「まあ、そうかもしれんな」


 上官も困り顔だ。

 彼は山形やまがた一郎いちろう少佐。この部隊を仕切っている。

 そして首脳部は後方の福岡に拠点があるので俺たちのことなどどうでもいいのだろう。

 大阪、京都の連中は今頃お怒りだろう。


「名古屋は西日本のものだ、とか考えがおじいちゃんなんですよ、もう」

「言いたいことは言ったか? では作戦を開始する。各自用意をするように」


 C-16輸送機か。

 これは中型の双発ジェットエンジン機でそっくりそのままの民間型がある。

 つまり民間機に偽装して名古屋まで飛ぶつもりなのだろう。

 あそこには小牧空港があるから。

 ここは神戸空港だが官民共用空港なのだ。


 東西の技術交流とかいう名目をぶち上げて東西日本で協力して開発したのがC-16なんだからギャグみたいなものだ。

 主翼は輸送機よろしく上部についていて、エンジンをぶら下げている。

 なお武装はないので、ミサイル一発でも飛んで来ればアウトだ。


 空港に移動すると輸送機が見えた。

 灰色のMRX-3シルフィードがマリオパペットの機体名だ。

 全長六メートルの小型人型兵器だそうだ。

 全部で三機、順番にC-16に搭載されていく。


 名古屋は今ごろ敵機が展開しているだろうか。

 普通に考えたら、防衛任務に出動するはずだ。

 どの敵部隊が出てくるかは未知数だ。

 その中には、タイヤのついた戦車である機動戦闘車もいる。

 それから99式戦車、最新式の15式軽戦車もいるかもしれない。

 そして一番の脅威は、SVX-1アダムだろう。

 世界で最初の簡易量産型メタルドール。練度はあちらのほうが一年上だとされる。

 東京に拠点を持っているので、もしかしたら出てこないかもしれないが。


「こういうときは嫌な予感が当たる」

「だよな、冷凍庫」

「ああ、ミカ先輩」

「冷凍ミカンは相変わらずだ」

穗村ほむら隊長、やめてくださいよ、もう」

「まあなんだ、死ぬなよ。まだ若いんだ。どうにかなる」


 俺たちがお互いの顔を見やる。

 こっちが犬神いぬがみミカ先輩。十七歳。元女子高生。

 反対側に座っているのが穗村大樹たいき隊長。二十五歳。丸刈りの元レンジャー。

 うちの主要メンバーで軍隊上がりなのは隊長だけだ。


 俺は三番機だ。

 シルフィードは新型個体電池と原子力電池のハイブリット型で、原子力電池は二十四時間発電できるため、その余剰電力を個体電池に充電することにより瞬間的な高火力が出せる。

 車のように走り続けるよりも、人間のように動いたり止まったりすることを想定しているのだ。

 ちなみに足の裏にはタイヤも内蔵されているので、普通に車みたいに走れる。


 空を飛ぶことはできないが、バックパックに空挺用パラシュートオプションがあるので、それで降下することが可能だ。


 俺たちはコックピットへ移動して、その時を待った。


「三、二、一、関ケ原上空を通過、新日本管制へ入ります」

「了解」

「「了解」」


 今は民間機として空を飛んでいる。

 しかしここから東京羽田へ行くのではなく、小牧上空へと進路を変える。

 防空設備を空爆しているとはいえ、すべてではない。


 関ケ原から名古屋まで、それほど時間は掛からなかった。

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