メタルドール
滝川 海老郎
第1話 開戦
昭和二十年、七月。ソ連軍の北海道上陸。
第二次世界大戦末期、ソ連の参戦により大日本帝国は窮地に陥っていた。
二度の米国による原爆投下があり、八月十五日には無条件降伏を受け入れることになった。
しかしソ連の侵攻は終わらず、東北、関東、東京と占領下に置いた。
米軍は最南端の沖縄から順に上陸をしており、ソ連に先を越されたのだ。
――ここが私たちの知っている史実と違うところだった。
米軍は九州、四国、中国地方、関西までに部隊を展開したが、ソ連は名古屋をその手に収め、やっと動きが止まることになった。
これ以降、日本は「西日本共和国」と「新日本社会主義共和国」へと分裂することとなる。
東西の壁は東西ドイツ、南北朝鮮、南北ベトナムだけではなく、日本もまた二分統治されることとなる。
朝鮮戦争が勃発すると、米軍は西日本から軍隊を朝鮮半島に送り込み、新日本もソ連の後方支援国家へと突入したが、主なプレイヤーは中国軍となっており新日本の影響は少なかったとされる。
朝鮮戦争が停止すると、日本国内も和解ムードとなり東西の民間交流が始まった。
特に昭和の統一日本オリンピックと、東西を貫通する東海道山陽新幹線が開業すると、民間での交流は活発化した。
しかしそれも長くは続かず、東西冷戦の色が濃くなるにしたがって、緊張感は増していった。
一九九〇年、東西ドイツが合併。一九九一年、ソ連が崩壊する。
日本でも東西の交流が再び盛んになり、合併に向けてのプロセスが開始されると噂されていた二〇一五年。
スキャンダルが東西のメディアを騒がせることになる。
それが「メタルドール」であった。
すでに東西の軍組織は多脚戦車、AI搭載型兵器の研究などが進んでおり、最新科学の見本市となっていた。
そんな折、多脚戦車から発展した、二足歩行型兵器、つまり人型ロボット兵器が新日本で実用化のめどがついたと報道されたのだ。
これは極秘事項であり、西日本の政治首脳部にとっては青天の霹靂であった。
しかしその技術は民間軍事企業経由で西日本にも流出しており、その差はわずか一年程度とされた。
市街戦を想定しているとされるメタルドールは宣戦布告に等しかった。
国境線の引かれている関ケ原では、緊張の瞬間であった。
それからさらに年月が流れ、二〇二五年、三月十六日、早朝。
まだ日が昇る前。
『速報です。名古屋、名古屋です。巡航ミサイルによる空襲を受け、レーダー施設、軍施設の一部が攻撃を受けている模様です』
テレビでは戦争が始まったことを示していた。
メタルドールの開発から発展した政治的問題は、ついに軍事衝突に発展したのだ。
「やっぱ、開戦か……くそが」
テレビを朝から見ていた俺は、コーヒーをぐびっとあおる。
それもこれも俺たちが乗っているメタルドールがその元凶なのだから、複雑な気分だ。
「出動命令、出るよな」
こういっては何だが、俺は元新日本の出身だった。
今西日本にいるのは軍にスカウトされたからだった。
メタルドールという名称は元々アニメのタイトルなのだ。
軍内部で何という名前なのかは明らかではない。
俺たちもメタルドールと呼ぶ。
ただ、西日本側の機体を新日本と区別して、メタルパペットと呼ぶことがある。
つい半年前の話だ。
それまでメタルドールというロボットゲームにはまっていて、そこで好成績を残していた。
無料ゲームなのにアイテム課金がなく、そこは実力の世界だった。
プレイヤーの能力でいくらでも強くなれる。
それが面白くてハマっていたのだ。
そうしたら、サングラスの兄ちゃんたちに面会を求められた、というわけ。
民間人の東西交流は普通に続いていたのだ、たった今までは。
これからどうなるかは分からない。
しかし、ここ日本が七十年ぶりに戦場になることだけは確かだ。
ブーブーブー。
集合を知らせるブザーが鳴っている。
いくか。
俺たちのブリーフィングルームへ、早足で向かった。
これから戦争に行くのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます