第3話(最終話) 熱海のリアル

 今を遡ること約三十年。

 私は高校を卒業して就職し、中学時代の友人と三人で熱海を旅行した。


 熱海といえば、温泉にビーチ。

 あとは、よく知らない。

 その当時、まだグーグル先生は身近な存在ではなく、徒歩で回れる観光地をさくりと調べることができなかった。


 だが私たち三人はそれでも、サンビーチの貫一お宮の像と秘宝館に行ったのだ。

 なぜ秘宝館だったのかは、今でも残る謎である。


 そう。

 知る人ぞ知る、熱海の秘宝館。

 そこは、大人の世界が煮詰まった場所だった。


 知らなかったんだよ、そのことをさ!


 まだウブなガールズだった私たちは、館内に展示されたあれやこれ(春画とか大人のお◯ちゃ)に、ワーキャー!と叫んだり、ゲラゲラ笑ったりして、気まずさと気恥ずかしさをごまかした。


 若かったな……本当に、懐かしくいい思い出である。


 そんな熱海が、観光客でごった返す時代がこようとは。

 私は、想像してなかった。

 旅立つ前に、親から噂程度に聞いてはいたのよ。

 テレビで商店街が紹介されたとかなんとか。


 まあ、百聞は一見に如かずというし、年明けに両親が旅行するかもしれないし、いっちょ熱海駅で降りてふらふらするか……


 はい、改札口出ました……


 なに⁉ この人人人人人人人人人人人人!

 熱海、いつからこんなんになった⁉

 駅ビルの土産物屋も、駅近くの商店街も、人だらけじゃないか!

 びっくりだ……びっくりだよ! すごいよ、熱海!


 それはもう、劣等生が優等生になるが如し。

 

 しかし予想以上の賑わいも、疲れ切った頭にはぼんやりとしか響かない。

 それでも、私はうまい梅干しを入手したかった。

 いつも会社でおかしをくれるMちゃんの好物だからだ。


 熱海と梅干し店、二つのキーワードをグーグル先生に伝える。

 あ、出てきた……商店街も抜けるし、ちょうどいいや……


 てくてく……いやあ……こりゃ、商店街は食べ歩きパラダイスだわ!

 あ、温泉まんじゅうが……こっちにも温泉まんじゅう……あっちにも温泉まんじゅう……

 疲れた脳みそは、自分の好きなモノにしか反応しない。

 いかに行列があちこちにできていても、そのほとんど意識に入らないのだ。

 うーむ、人多っ。

 以上、商店街の感想終了。


 さて引き続き、坂道をおりていく……てくてく。

 道沿いにも、いくつもの店がたち並んでいる。

 鯛ラーメンに、お茶やさん。


 鯛ラーメン、準備中かあ……

 なんとなくラーメン食べたかったんだけどな……

 でも、私だけのためにラーメン作りなさいよ、なんて言えないし……通過しまぁす……


 結論。目的地の梅干しやさん、発見に至らず。


 それは覚悟の上だった。

 大丈夫、保険はしっかり準備してある。

 あらかじめ見ておいた、駅ビルの土産物屋。

 そのラインナップの中に、梅を使った商品があった。

 それをMちゃんへのお土産にしよう。

 駅に戻るぞー、回れ右ぃい……はあぁ……疲れた……


 トボトボ……あーあ、もうすぐ駅かぁ……

 なんかせっかく熱海に来たのに、なんだか今ひとつだったなぁ……

 と暗くなっていると、突然


『海……海はどうよ?』


 と神の言葉が降りてきた。


 え……海? いやあ、でも、ここから遠いんじゃないの? 私、もうヘトヘトなんだけど……

 グーグル先生、おしえて〜!(アルプスの少女ハ◯ジ風に)

 なになに……歩いて15分?

 15分か……私なら、歩けるな……


 ぴたりと止まる足。


 ……まあ、せっかく熱海に来たんだし。

 旅のシメが海ってのも、悪くない。

 なんてったって、海なし県民の私は海に対する憧れがハンパないのだ!

 ざっぱーん!(波の音)


 行くぜ、海ぃい!


 ワクワクしながら、再びゆるやかな坂を下っていく。

 ほんとにグーグル先生、便利!

 ほら、ちゃんとサンビーチに着いたもん!


 時刻は夕方4時近く。

 空の色は、薄紫と薄いグレーに淡いピンク。

 そんな空も、きれいだ。


 注1:鹿嶋は夕暮れのお空が大好物。


 あ、そうだ!

 バームクーヘンがあるんだ……

 この海と空を眺めながら、昨日掛川花鳥園で買ったバームクーヘンの残りを食べよう!


 気がすむまで海を眺め、近くのベンチでおやつタイム。


 もぐもぐ……

 うん、昨日よりぱさついてるけど、まだふんわんしていてうまい。


 ペットボトルのブラックコーヒーとバームクーヘン。海と夕暮れ空と穏やかな空気。

 

 この2日間、天気に恵まれて寒い思いはしなかった。ほんとにありがたかったな。

 美味しいものもたくさん食べたし、かわいい鳥さんやきれいなお花も見た。欲しかった、浅間大社の御朱印帳も入手した。

 

 脳内では、勝手に旅の振り返りが行われていた。

 結論。

 旅はいい。

 友達や家族と行っても、一人でも。


「人生、いくつになっても学びだなぁ……」


 そう、学びなのである。

 サンビーチから熱海駅まで、グーグル先生に案内を頼んだら。

 きっっっつい傾斜の石階段を案内された。

 

 は? 来た道、ゆるやかな坂道だったじゃん!!

 どういうことなの、グーグル先生⁉

 

 いや、これは昨日食べすぎたから、運動せいという神の思し召しに違いない……

 ちくしょー、のぼってやる……のぼってやるよォお!!


 注2:鹿嶋は意地と見栄でできている


 また行きたいな、一人旅。


※※※ここまでご愛読くださった皆様に、深く感謝致します。ありがとうございました。再び調子に乗って旅日記を書く日が来ましたら、また読んでやってくださいね!では、また……※※※

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

続・おばちゃんの一人旅日記 鹿嶋 雲丹 @uni888

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ