短編 ある作家
狐野 輝夜
ある作家
ある作家がいた。そしてその作家は捕まった、殺人の罪で。
その作家が書いた小説がドラマ化することになった。その作家は脚本を他人に書かせることに対して渋っていたが、局側が
「作家さんは脚本を書いたことが無いから。こういうのはプロに任せておけばいいの」
と作家を強引に押し切って脚本家に任せることになった。
そして出来上がったドラマは作家が書いたものとは大いに違うストーリーになり、最終的な結末も大きく変えられた。そしてドラマ自体も大いにバッシングされることになったのが救いようもない事実となった。
これについて局も脚本家も「作家はこのことについて同意している」の一点張りとなり作家自身、何も言ってこなかったため世間ではバッシングがさらに強まり、まるで自分たちが正義だとあちらこちらで燃え広がっていた。
そんな折に局のプロデューサーと件の脚本家が殺された。そして殺したのはその作家だった。曰く、
「彼らは私の魂の作品である小説を歪な形にし世に出し、そして世に受けなかったら私の手元に『お前の作品だろう?』と言って渡しました。私の魂を好き勝手にもてあそんだのなら私も彼らの作品を好きにしてもいいと思いました。だから彼らの魂の作品であるあの醜くて、俗物的で、退廃を極めたあの体を好き勝手しました」
そんな彼はこうも言った。
「私は極刑は望みません。度を越したことをしたことも反省します。ただし彼らへの謝罪、これだけは絶対にやりません。私が彼らに魂をもてあそんだことに対する謝罪を求めたのですがそれが無かったのと、もう二度とその謝罪を受け取ることができませんから」
短編 ある作家 狐野 輝夜 @konokagu
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