バレンタイン模様

藤泉都理

バレンタイン模様




 灯が沈む時間がわずかに遅くなってきた頃。

 一日の中で優しくなったり厳しくなったりと変化する寒さに、一喜一憂しつつ。

 迎える、夜。


 連日だ。

 煌々と眩さを放つ光が、曇り硝子に塗られた暗闇の一部を散らす。


 月光だ。

 窓を開ければ、さぞかし神秘的で玲瓏たる月が出迎えてくれるだろう。

 想像するだけだ。

 カーテンを閉めて、月を遮断。

 万遍なく部屋を照らす人工灯に対面するように、ベッドに仰向けになって目を瞑れば、一度だけ大きく。曇り硝子を震わせる音が瞼を刺激した。


 雷轟だ。

 目を開けろと命令する脳を無視して瞑り続ける中で、ふと思った。

 月と雷。

 どちらがより強い光を放つのだろう。

 どちらがより強く、濃い影を生み出すのだろう。






 あの芳香をいつ、聞く事ができるのだろうか。

 雪に半分だけ埋もれる何十枚ものあの葉には、地面から天へと伸びる鋭く長い緑の葉には未だ蕾は発生していない。

 咲かない年もあった。

 今年ももしかしたら。

 登校中の足が、ふと止まる、止められる。

 焼き立てのパンのかぐわしい匂い。

 ガラス越しに目が合った、チョココロネ。

 逡巡しては買い求めた。

 ふたつ。




 これなら、すんなりと渡せるだろうか。

 渡して、すんなり言えるだろうか。




 くゆる白い息越しに見える君に。











(2024.1.29)



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バレンタイン模様 藤泉都理 @fujitori

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