白魔法適正9999のおっさん、異世界で聖女になる~俺が聖女になるんだよ!勘違いから始まる楽しい救世録~
蛙田アメコ
第1話 俺、召喚!! ……え、聖女??
眩い光。
俺は真っ白い空間のなかで、いくつもの声を聞く。
――来たれ、来たれ。
――異界より来たる、我らの救世者。
――どうか、我らにその力をお貸しください。
これは、あれだ。
……異世界召喚。
深夜アニメで何回も予習済みの、例のアレ。
シミュレーションはばっちりだ。
俺はしがない社畜だが、問題ないだろう。
というよりも、安月給でこき使われて休みも取れないポイズンな毎日とオサラバできるなら、異世界でもなんでも行ってやるさ。趣味の料理もろくに出来ない日々なんて、クソ食らえ!
特技は……えー……特技はぁー……しいて言うなら、オムライスを綺麗に包むことだが、全然異世界でも通用すると思う。いける。たぶん。
根拠はないけど、前向きに考えていこう。
ポジティブさがお前の取り柄だ、って野球部の顧問にも言われたしな!
……まぁ、ずっと補欠だったけど。
中堂リョウタ。31才。
この光が消えたら、俺はきっと異世界に……。
◆◆◆
「おお、召喚に成功したぞ!」
「異界からの救世者!」
ざわざわ、と期待に満ちたざわめきに目を開く。
目の前には、いかにもファンタジーな光景が広がっていた。
てるてる坊主みたいなローブを着た人たちが、祈りのポーズのままでこちらを凝視している。
壁に取り付けられた松明の火に照らされた神殿。
仰々しい杖を持った、長老っぽいおっさんたち。
鈴や花で全身を飾った、踊り子っぽい女の子(かわいい!)。
ざわざわ……。
ざわざわ……。
ちょっと待ってくれ。
このざわめき、明らかに「戸惑い」を含んでいる気がするのだけれど?
「……こほん」
長老っぽいおっさんが、咳払いをして場を沈める。
何人かの人を集めて、こしょこしょとナイショ話をしている。
召喚された俺は、その間ずっと仁王立ちをしているわけだが。
ここでオドオドしてはいけないと思うんだな!
なんて言ったって「救世者」みたいだし。
なるべくキリッとした表情を崩さないままで仁王立ちをキメる。
しばらくすると、長老たちが俺の前にやってきた。
踊り子っぽい女の子も一緒だ。近くで見るとめちゃくちゃ可愛い。大好きなアイドルグループ幽霊坂49の推しにめっちゃ似ているし。
そして。
踊り子っぽい女の子が、口を開いた。
「……ようこそ、クレスティアへ」
「くれすてぃあ」
「あなた様は──」
「俺は、リョウタ……中堂リョウタです!」
この場所は、クレスティアというようだ。
国の名前か、世界の名前かわからないけど。
なんか、いかにもファンタジーって感じ!
憧れの異世界、来てしまいましたよ。
ちょっと感動していると、踊り子の口から信じられない言葉が飛び出した。
「どうか、清らかなる魔力でお救いください」
「おおお、やっぱり俺、勇者とか賢者とか?」
「哀れなる私どもに、その力をお貸しください――聖女様」
「……は?」
いや、ちょっと待って。
今、なんて言った?
「あ、あの……なんて?」
「その清らかな力で、我らをお救いくださいませっ!」
「いや、その後」
「聖女様!」
「……えー」
「せいじょっ!さまっ!」
「いやデカい声で言ったってダメだわ。ってか、やっぱり今『聖女様』って言った!」
「はい! 私たちの世界に伝わる【聖女召喚】の術式によって異界から招かれた方ですから」
あ、はい。
ッスーーーーー……。
「……ちょっと待ってね」
いったん、確認作業に入ります。
おっぱい……なし。
よし。次。
ちんちん……あり。
うーん、ですよね?
「えーっと、君」
「はい!」
「その、名前は?」
「我が名は召喚の巫女、エメラ・メラルドでございます」
「エメラさん」
「はい!」
よし、意思疎通はできている。
言語もばっちり通じている。さすがは異世界召喚。
きらきらと期待を込めた瞳で、俺を見つめる美少女である。
でも、ごめん。事実は変えられないよ。
「エメラさん。俺、男だよな?」
「は、はい?」
「いやいや、『はい?』じゃなくてさ。俺、男だよ? TSとかしてないよね?」
「てぃー……?」
「俺、君から見て女の体になったりしてないよね、ってことですね」
「は、はい。違うかと」
うんうん。
ちゃんと同じものを見てるよね。
「それで……俺は?」
ここで、核心に迫る質問。
順を追って、落ち着いて。
自分の鼻先を指さして、ゆっくりとエメラに問う。
エメラはまっすぐにこちらを見つめて、言った。
「聖女様ですっ!!」
「うーーーーん」
俺は、たっぷり5秒考えてから、
「いや何でだよ!?」
絶叫した。
いや、ちょっと待ってくださいよ。
マジで? いや、どういうこと?
あこがれの異世界召喚。ここまではいい。
俺……男なのに、聖女なの?
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