そもそも神様って
海堂 岬
第1話
「うーん。ワンパターンって言うか、宗教の影響っていうか、文化の違いっていうかねぇ」
「映画ひとつにお前本当に理屈っぽいな」
「『神は死んだ! 』じゃないわよ。そもそも神様って生きてるもんなわけ」
「お前、その台詞って突っ込むところか」
「生とはなにか死とはなにかって定義付けしてもいないのに、神様の生死をあれこれ言っても意味ないでしょうが。そもそも神の定義は何なのよ。あ、でもこの映画はキリスト教の国で作られているからそれは暗黙の了解か」
「わからんぞ。監督が何教の信者かなんて、書いてないだろ。映画の説明に」
「宗教や文化の多様性を考慮して、どうのこうのってどこかからつっこみはいらないのかしら」
「やめろ。これ以上、映画をつまらないものにしてどうする」
「そもそもどうして人間の思考の枠の範囲内で神様が捉えられると思うのか」
「そもそもどうしてお前は映画を純粋に楽しむことができんのか」
「だってほら、犬とか猫とかって、人間のことを賢い大きな犬とか猫と思っているっていうじゃない。それって、人間のこと理解してないでしょ。犬や猫なりに解釈しているだけで、厳しいことを言えば誤解じゃないの」
「お前、ペット飼っている人を敵に回すつもりか」
「同じ地球上に存在する哺乳類である犬猫ですら、ヒトを理解できない。いわんや、ヒトが神を理解できようか」
「わざわざ反語を使って仰々しいやつだな」
「そもそもヒトも犬猫を理解しているのだろうか」
「謙虚なのはいいことだ」
「ヒトはヒトを理解しているのだろうか」
「哲学気取ってどうした。変なやつだな」
「ヒトが神を理解できようか」
「反語好きだな」
「いわんや、ヒトはヒトが理解していない神の生き死に関して論じることができようか」
「お前、何が言いたい」
「あー、思いつかない! 『神様が死んだ日』ってお題で、文章書けっていわれて、参考にしようって映画みたけどやっぱ無理。そもそも存在するのか生きてるのかもわからない相手なのに、死んでようがなにだろうがわからないじゃないの」
「お前、大騒ぎして単なる言い訳かよ。無駄な言い訳をしている暇があれば、手を動かせ、手を」
「もうやだ、寝る」
「おい、こら」
忠告を聞かずに布団に潜り込み、早々に寝息を立て始めた相手からは返事がない。
「まあな。お前、俺がここにいるってことすら気づいてないもんなぁ」
誰にも聞こえない言葉が、灯りの消えた部屋に溶けていった。
そもそも神様って 海堂 岬 @KaidoMisaki
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